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ドローン空撮[技術解説] - 墜落テスト[2.0kgクラス 6モーター 2012年12月編]

墜落テスト[2.0kgクラス 6モーター 2012年12月編]
墜落した機体

自社にて開発・製造されているマルチコプターは、空撮業務で想定されるあらゆる事柄を想定されています。
空撮業務で避けて通れない墜落リスク。
このリスクにも正面から取り組んでいます。

機体総重量の低減は当然。
もしもの墜落の際には衝撃を機体自身で吸収し墜落対象への被害を最低限に留める設計がされています。

さらに、墜落後のメンテナンス性の向上にも考慮。
通常業務で想定出来る軽度のトラブルからは30分程度のメンテナンスで復帰します。
この様な考え方は、市販品ではあり得ない事。
ネットを探しても、この様なコンセプトの機体は見つからないことと思います。

ここではファームウェアのテストと兼ねて実際に墜落した機体からどのような配慮がされているかをご紹介します。

1回目墜落

1回目墜落

高度10m程度の高さから、フリップ(宙返り)状態にて墜落。
地面には脚方向から墜落。

スキッド=各種ヒューズが働き分解
カメラジンバル=マグネシウムヒューズが働きカメラを分離
モーターマウント=樹脂ネジのヒューズが働きモーター分離
バッテリー=ベログロにより分離

全て設計意図通りに動作。
重量物である、バッテリー・カメラ・モーターを中心に綺麗に分解させています。
以下では個別に設計思考を説明します。

スキッドヒューズ
スキッド

下からの衝撃で浮いた状態になっています。
持ち運びの観点からスキッドが分離式となっている機体も存在しますが使い方の方向が一般的とは逆になっています。
この方向ではハードランディングでスキッドが外れてしまうこともあります。
なお、着陸の際にはハンドキッチで対応しています。(緊急時のみ普通の着陸方法)
スキッドの取り付け目的は上空での視認性と墜落時の衝撃吸収の観点から。

下からの墜落の場合はこの場所を上に切り離す。
スキッド本体も、薄めのパイプにて衝撃を吸収するという設計になっています。
軽量を最大の売りとしている機体の割りには大きめのスキッドを取り付けている理由がここにありました。
なお、大きめでもカーボンパイプの肉厚は極薄。
指の力でパイプは潰れます。
具体的には0.5mm厚のカーボンパイプ。

スキッドの取り付け部分は左右で連結されています。
これは形状を安定させる観点から。
正確に左右のスキッドの平行性が出ていないと、綺麗に軸を通す事ができません。
目的は上空での軸を通す為の補佐であることから、精度は極めて重要。
限界まで重量を落としたこととヒューズの関係から、取り付け部分の強度が甘い。
これを連結することにより締め上げています。
この連結は脚の片側に加重がかかるような落ち方でも、加重を分散させるという狙いもあります。

今回の様なテストも含めて何回か墜落を経験してます。
その度に、このスキッドが非常に有効であることが確認されています。
Ver2では既に完成領域。
Ver3以降の開発の際にはフレーム設計の見直しにより、僅かな軽量化の可能性が残されています。(連結部材の短縮)

カメラジンバル
カメラジンバル

マグネシウムは、墜落時の衝撃を変形により吸収する効果が期待出来ます。
カーボンなどでは曲がっても元に戻る方向に力が動きます。
マグネシウムなら、自分を曲げることにより幾分ですが衝撃が和らぎます。
衝撃も限界を超えると破綻します。
このマグネシウムの特性を利用し、重量物であるカメラが搭載されている部分を切り離しています。
この写真からは樹脂ネジのヒューズが働く前にマグネシウムヒューズが働いています。
これはネジ以外にも両面テープでアングルとカーボンのアームが付けられることに起因します。
カメラぶれの低減の為に、面で部材を貼り付けていることから、ここでは樹脂ネジのヒューズが働きません。
さすがに、この場所を接着のみというのは精神的に不安なのでネジを置いていると・・・
少なくとも、取り付けネジの一本化は考えても良いようです。

モーターマウント
モーターマウント

マウントの取り付けには樹脂ネジが使われています。(黒色で切れています)
衝撃により、ネジが壊れることにより、モーターは機体から分離されます。
なお、モーターマウントは市販品の本来の形は四角ですが軽量と鋭利な部分を低減する観点から限界まで削られています。

写真内の銀色のネジはチタンネジ。
この部分をサラネジを用います。この形状の樹脂ネジが存在しない為、やむを得ずチタンネジを採用しています。

2回目墜落

2回目墜落

高度10m程度の高さから、フリップ状態にて墜落。
地面にはプロペラ方向から墜落。

スキッド=各種ヒューズが働き分解
モーターマウント=樹脂ネジのヒューズが働きモーター分離
バッテリー=ベログロにより分離
パイプ=フレームヒューズが働き分離

1回目と逆の方向から墜落。上下逆さまの方向で落ちています。
スキッドで力を受けることが出来なかったことから、モーターを取り付けているパイプにて衝撃を吸収しています。

パイプマウント
フレームヒューズ

フレームヒューズ解説ページ

モーターマウントと同様に樹脂ネジをヒューズとして用いています。
パイプの先端で受け止めた加重はモーターマウントを切り離す。
さらに、パイプマウントも切り離して可能な限り落下の衝撃を和らげます。

通常設計(0 [Zero]以外のほとんど)ではパイプの衝撃はフレームに伝わります。
これにより、フレームを破損させます。
フレーム損傷からの復帰には機体を全て分解する必要が出てきます。
それ故に、メンテナンスの時間も必要となっていいきます。

この様な、「切り離す」という設計思考の為、フレームと当然として、パイプにも一切の損傷がありません。
パイプを壊すような力は、マウントを切り離す事により全て吸収出来ているという証明にもなります。

パイプマウント

このパイプマウントには設計上の工夫があります。
パイプを下から押し上げる力には強く。
パイプを上から押し下げる力には弱く。

スキッドから墜落する場合はスキッド部分に重要な衝撃吸収能力を負わせています。
しかし、上下逆さまの墜落ではスキッドによる吸収は不可能です。
そこで、パイプに、この機能を待たせています。
飛行中は下から上への力しか働かないことから、ヒューズは働きません。
墜落などにより、上から下の力が働くと、「ポロッ」とパイプが外れる。
←1回目の墜落(下から上への衝撃)では、この様に曲がりながらもヒューズは働いていません。
フレームは一時的に曲がりますがカーボン製であることから、力を解くと元に戻ります。
なお、この機体からパイプにカーボンを採用しています。
このクラス(2.0kg)ではカーボンパイプでは強すぎると考えていました。
アルミなら、墜落時に自分が曲がることにより衝撃が吸収される。
軽量に拘っているハズなのに、カーボンパイプを使わない理由がここにありました。

この力の入る方向に着目するフレーム設計は偶然の産物でした。
軽量化を進める過程で、この基本設計を思いつく。
実際のフライトを想定した加重をパイプに与えたところ・・・
都合の良い変形を確認。

特許性はあるのですが・・・
他の会社(メーカーも含め)はここまで攻め込んだ機体は出してこないと考えています。
※もしも、実体化するならご自由に。

コラム:どのように、こんな事を思いつくのか?

0 [Zero]が墜落を本気で想定しているのがわかって頂けたかと思います。
そして、設計が確実に衝撃を吸収しつつ、修理時間の短縮も叶えているのがわかるかと思います。
この2回の墜落でも、フレーム・パイプ・GPSアンテナ・ジンバルサーボなど、普通の機体なら壊れやすい場所が一切痛んでいません。
樹脂ネジ・プロペラ・特定のマグネシウムパーツ・特定のチタンネジ
これらの交換のみで、機体は復活しています。
もちろん、業務撮影が出来るレベルに戻ります。

同業他社が不思議に思うのは・・・
どのように、こんな事を思いつくのか?かと思います。
この答えは「ある時期に、集中的にラジコンを落として修業した時期がある」となります。
もう、10年くらい前の話となりますが初期のヘリコブターの3D(曲芸飛行)を真面目に取り組んでいた時期があります。
現在の様にシミュレーターが普及する前です。(最低限の物はありました)
誰もが実際の飛行場にて離陸から着陸までを覚えていた時代です。
この頃に、連続フリップをしながらススキを何回刈れるか・・・
さらに、フリップの速度を上げる為に、重心の最適化や慣性を大きく削れる場所を徹底的に軽量化するとか・・・
ループを描きながら、スキッドを地面に触れさせるなどという無謀な事をやっていました。
当然ですが墜落は日常茶飯事。
1日の最大墜落回数は9回。(軽量な電動では無い、50クラスのエンジン機)
ブレード・スピンドルはもれなく交換。
1日に飛行場でフレーム交換2回という記録も持っています。
スペアパーツの購入単位は、「お店の在庫の全部」
一時的には100本のスピンドルを用意するなどという状態で臨んでいました。
テストで限界まで攻め込めたり、実務で集中力が切れないのはこの頃の訓練のお陰。
墜落すると、どのように壊れるかと、いち早く治すにはどうすれば良いのかを体感しています。

何を言いたいかと言うと・・・
「徹底的に落とさないと、この様な設計は出来ない」と言う事。
DJIのファームウェア(この墜落テストの切っ掛け)でも触れていますがラボではこの様な発想も機体も生まれません。
フィールドに出て、限界まで機体を飛ばし込むこと。
これ以外に、0 [Zero]に近づく方法はありません。

徹底的という世界を通ってきたからこそ、軽量機体以外は人前で飛ばすことに抵抗がある。
軽量機体であるからこそ、限界テストが実施出来。そして、本当の意味での安全が提供できる。
※本当の安全には余剰浮力=一般想定よりも重いモーターも含む。
DJI S800で、0 [Zero]の様なテストは・・・ユーザーレベルでは出来ないでしょう?(メーカーもやっていないが・・・)
仮に、0 [Zero]がS800を購入したなら、落ちる限界を探る為に墜落テストは実施します。
しかし・・・
S800の具体的な瑕疵がハッキリと見える眼も持っていますので、購入に至ることがありません。

なお、CINESTAR8に関しては購入する可能性が大であるとコメントを残します。
こちらの設計者はS800の瑕疵が見える設計者です。
フレームの設計者はまともな方(褒めています)です。

公開日:2012/12/05
最終更新日:2013/09/07
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