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ドローン空撮[技術解説] - 2.0kgクラス高機動タイプ [Ver2] 開発中

2.0kg Ver2
墜落の概要

新機体の開発目的

2012年夏の墜落により機材の大幅な見直しが必要になりました。
墜落前から予定はされていましたが無線器機の規格の変更の実施。
同時に、初の機体の大幅リニューアルを実施することになりました。

・送受信機の変更(JR→フタバ)
・バッテリーの2本搭載
・重心点の最適化

2012年2月以降、様々なタイプの実務経験を重ねることが出来ました。
その経験から、実務に即した形の機体改修の案が頭には浮かんでいました。
今回は送受信機の入れ替えと同時に機体の改修を同時に実施します。

送受信機の変更(JR→フタバ)

DJIはS.BUS環境下にて開発を実施していると思って良いでしょう。(確認は取っていません)
送信機がJRではトリムズレが根本的に解決出来ない事はこれの証明と考えています。
ならば・・・
S.BUSを用いるのがもっともトラブルを押さえられると推測されました。
JR(XG8)には実務性能として非常に魅力的な能力があります。(軽量+テレメトリー)
これを捨てるのは惜しいのですが・・・
電波障害で墜落の可能性を抱えるよりは遙かに健全です。
今回のS.BUS乗り換えで、電波障害が改善され無ければ・・・
コントローラーはDJIから乗り換えが確定となります。

バッテリー2本搭載の意味

従来は軽量化の観点から、11.1V2600mAのバッテリーを1本搭載していました。
これで、公称のフライト時間は4分。
冬期から実務(テスト含む)を開始し、初夏までは大きな問題は感じていませんでした。
しかし・・・
35度を超えるような環境下で実務を想定したテストを必要に繰り返した結果無視できない現象が確認出来ました。
「ストレスが蓄積されたバッテリーは大幅に放電能力が低下」
これが具体的な現象です。
当初からバッテリーの劣化管理方法には関心を向けていましたが決め手となる方法が見つけられない状況で夏を迎えました。

◆今回試す方法
常に2本セットのバッテリーを使用。
使用後の充電で、各々の放電量を視覚的に管理。
ストレスが貯まったバッテリーの予兆を視覚的に掴む。

当初は今までのバッテリー×2で挑むことから重量が増える事となります。(稼働時間と信頼性の大幅増)
2本化により、各々の放電時のストレスは下がります。
この事から、総容量を従来よりも少なくしても「フライトは可能」になります。
つまり・・・
3分フライト限定の実務ならば、従来方よりも軽量化が可能であることを意味します。
機体設計では想定される範囲のバッテリーの増減でもバランスを崩さないこと。
最低でも水平方向のバランス取りは必須。
可能であれば垂直方向のバランスも可能な限り取れることがコンセプトになります。

重心点の最適化

GoPro搭載マルチコプター 0 [Zero]のサイトでは何度が「理想重心点」という言葉が出てきます。
国内のマルチコプター業界で、これと同じ単語が出てこないことから・・・

勝手に、命名しました。

理想重心点とは揚力が発生する重心点。
平面方向では一般的には機体中央。
上下方向ではプロペラ付近に位置します。(プロペラの翼形で位置は割り出せる。回転数により上下する)
ザックリと、プロペラの位置と思って間違いありません。
※DJIの開発者も、この点に気がついていないと思われる(説明書のジャイロ搭載位置の算出方法から)

一部の未熟な技術をもったプロ(模型店・撮影業)のサイトでも、「重心は下げた方が安定する」述べられています。
マルチコプターではこの考えは古いという認識が必要です。
なお、多くのカメラを搭載しているマルチローターは理想重心点が大きく狂っています。

2.0kgクラス高機動タイプの初期型(今回のマイナーチェンジ直前まで)も同様な欠点を持っています。
これは開発初期の段階では重心の最適化よりもカメラの防振を優先させたという事情があります。
現在では防振対策も進化しているので、カウンターウエイトしてのバッテリーは不要になりました。
なお、重心点のズレは無風でホバリングをしているときには大きな問題にはなりません。(あっていた方が有利)
問題となるのは高速移動・強風時・バッテリー劣化時など、機体性能を使い切る条件下で強く出てきます。
他社で風を苦手としているのは・・・それは重心点の大幅なズレが大きな原因であると言っても過言ではありません。
重心がズレている機体をまともに飛ばすには・・・
これは2.0kgクラス高機動タイプの初期型で具体的に証明しています。
「モーターの十分な余力と、軽量機体」
これに尽きます。
機体バランスの補正を十分補える余剰浮力があれば・・・
取りあえず問題は起こさないのです。
※この方法は推奨しません

今回の改修では大幅に重心点の改善(上方引き上げ)を行います。
モーター・モーターコントローラー・フライトコントローラー・プロペラ・総重量。
これらの、フライト性能に直接影響する部分は同じ物を用いて重心位置の変化のみを検証します。
純粋に、理想重心点に重心を近づけるとどのような改善が見られるのか・・・
これを検証することになります。

初フライト完了

初フライト完了

2012年9月2日:山梨県にて

完成度80%にて初フライトを実施しました。
重心点を100点満点で評価すると、この機体で50点。
初期型で20点(多くの他社の平均点よりも低い)
理想とはほど遠いと言えるのですが・・・

やはり、大きな改善が見て取れました。

実務ではラダー旋回時の安定性・最高速度の引き上げというメリットが生まれています。
ただし・・・
カメラのカウンターウエイトとして機能していたバッテリーが無くなったことから振動対策には修正が必要になっています。(想定範囲)
このページを書き終わってから、残りの部品の製作と最終調整に入ります。
完全に機体が固まった段階で、機体の細かい設計コンセプトなどは発表させて頂きます。

コラム:軽量化の質
カーボンフレーム

今回からフレームが0 [Zero]・オリジナルに変更になります。
左上のフレームがラピド工房から購入した、今まで使っていたカーボンフレーム。
オーソドックスなサンドイッチ構造です。
右上が同じ穴位置設計で軽量化した、自社制作カーボンフレーム。
クランプ取り付け穴位置が同じなので、互換性が保たれています。
これに、画像下側の小さいフレームとのサンドイッチ構造として軽量化を図ります。
これで、30gの軽量化。

「ここまで軽くすると剛性が保てないだろ~」
この様に考える方もいるかと思います。
答えとしては「必要十分な剛性が確保されています」となります。
もちろん、フレーム単体の剛性は落ちます。
しかし・・・フレーム一式は十分な剛性が出ています。

クランプマウント

「口で言うのは簡単」
さらに、ツッコミは続くと思いますので、具体的な剛性アップのテクニックを紹介します。
丸パイプのサンドイッチ構造ではパイプをクランプする部材が必ず必要になります。
今回はラピド工房のクランプマウントを用いています。
このラピド工房のクランプマウントは極めて優秀。
様々な機体を部品取りとして取り寄せて、クランプ部材を比較しましたが・・・
入手性・重量・精度・価格など、実務性能でラピド工房製がベストという答えに行き着きました。
さて、このクランプマウントですが・・・
0 [Zero]ではカーボンフレームに瞬間接着剤で固定しています。
たったこれだけの事ですが一滴の瞬間接着剤でフレームの剛性は大幅にアップします。
ラピド工房から販売されている機体では低頭のボルトで止められているのみ。
トルクを必要にかけ過ぎると、クランプマウントのネジを潰すことになるため限界がある。
マウントを貫通構造にすると、トルクは掛けられるが重量増とメンテナンス性の悪化が発生。(接着+貫通はありかと)
なお、クランプマウントは、「オス」「メス」がありますが「オス側」だけでも十分有効です。
「メス」は消耗により交換の必要性が出てきますがオスは半永久的に使えます。
つまり・・・接着剤固定による具体的なデメリットは何一つありません。
敢えて、デメリットを探すとすると・・・精度の低いフレームでは収まらない事だけです。

さらに・・・
クランプとフレームが一体になるとフタのような構造になります。
従来(市販品)と同様な構造ではクランプがずれる事もしばしばあります。
これが一体構造で一気に解決。

つまり・・・
・剛性=向上
・軽量化=30g減
・メンテナンス性=大幅向上

デメリットは「フレームを設計・製作するのが面倒」という点のみ。
カメラ搭載やバッテリーの位置移動のために、余計な穴が空いています。
これらの位置が完全に確定できる状態になれば・・・
さらに5gは軽量化が可能です。

このページを含めて0 [Zero]の示す重量のみに着目するのは危険です。
0 [Zero]はフレームや追加部品に関しては極力軽量化。
モーター・プロペラに関しては十分な性能。
そこから導き出されている総重量です。

0 [Zero]と同じ重量は容易に実現出来ます。
モーターの性能を下げれば、フレームは重くても総重量は0 [Zero]以下にも出来ます。
しかし・・・風速10m/sの環境下で安全が確保出来るかとなると・・・
それは無理な話でしょう。
軽量を売りにする機体が具体的な強風時の資料を示さないのがこれを証明しています。

カーチス・ヤングブラッドの著書で、「必要以上の軽量化はデメリットであると」いう内容の記述があります。
それは大量生産品という観点からは間違い無く「正」と言えます。
しかし・・・
極一部の一点物では、「否」と言えます。
0 [Zero]の設計はその数少ない具体的な例と言えると思います。

公開日:2012/09/03
最終更新日:2012/09/03
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