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ドローン空撮[技術解説] - 「螺旋下ろし」で安全な機体回収

「螺旋下ろし」で安全な機体回収

墜落の多くは、直下の下降時に発生している。
高高度では、ホバリングから突然の暴走などに入る事がある。

マルチコプターは、固定ピッチという特性から、「下降と上昇気流に弱い」という宿命から逃れることが出来ません。
可変ピッチなどの付加機構による回避は可能ですが、軽量且つ単純というマルチコプターのメリットを捨てる事になります。
軽く単純な固定ピッチマルチコプターを可能な限り安全に運用する工夫が、「螺旋下ろし」
0 [Zero]で実践しているノウハウを公開します。

固定ピッチマルチコプターを用いるなら、「螺旋下ろし」は必須

固定ピッチのメリットとデメリットにて、マルチコプターの根本的な欠点を指摘しています。
具体的には・・・
・トラブル(墜落)の多くは、下降中に発生
・ホバリングから突然のハンチングに入る現象が確認されている

2014年現在のマルチコプターの多くは、DJI製品が採用されている。
この、DJIのマルチコプター制御は、真下への降下や上昇気流発生時の突然の墜落に対抗する手段はありません。
※純正機体は、低重心として設計されています。
この突然の墜落に対抗するには、以下が考えられます。
・ハードウェア・ソフトウェアによる対策=メーカー頼み
・回収時のフライトコースの工夫=ユーザーが即時に実施可能

2014年8月現在では、ハードウェア・ソフトウェア両面からの根本的な解決策はありません。
※突然の墜落が発生しにくい設計は可能
ここでは残りの、「フライトコースの工夫」により突然の墜落を避けるノウハウを紹介します。

◆0 [Zero]からのお願い
「螺旋下ろし」は、マルチコプターの降下中の墜落対策です。
これを実践することにより、マルチコプター降下の信頼性は、大幅に向上します。
特に、ファントムクラス(概ね2.0kg以下)の機体には有効です。
しかし、このテクニックを用いても上昇気流に対抗することは出来ません。
マルチコプターは上昇気流に弱く、この上昇気流はどこにでも発生する。
2014年現在の多くのマルチコプターは、どのような場所でも墜落する可能性があるという事実を受け止めて下さい。

まずは、特許を潰します

「螺旋下ろし」は、フライトコントローラー等にプログラムを実装することにより特許性が出てきます。
ソフトウェアから攻める特許は取得しやすいので、これを出したなら高い確率で取得出来る事でしょう。
0 [Zero]も含めて、この様な特許を独占されるのは困りますので、まずは特許性を潰します。

・固定ピッチ起因の不安定要素を取り除く為に、特定パターンの自動降下動作を行う

これで周知となり、「自動螺旋下ろし」の特許性は無くなりました。
発明者である0 [Zero]自身には、出願期間の猶予が残されていますが・・・ 特許は出しません。

※2014/08/13:公開

「螺旋下ろし」に行き着いた経緯

直下の下降時や、高高度のホバリング時に墜落に陥りやすい機体の特徴。

・モーターひとつあたりの受け持ち過重が軽い
・浮力重心とZ軸重心が近い
・重心から離れた場所の過重が少ない(プロペラ間隔が狭い)
・プロペラ効率が高い

重要なのは、上の二つです。
「軽めでZ軸重心が高い機体」
これが、突然の墜落に陥りやすい機体です。
この機体は、横からの強風や下降気流。そして、乱流などには極めて強い特性を示します。
さらに、水平飛行や上昇などでも好ましいフライト特性を有します。
また、モーター起因の振動も少なく、バッテリー効率も良い・・・
0 [Zero]が、マルチコプター参入当時(2011年)から目指していた方向が、これに該当します。
この機体は、机上では理想的ですが、DJI製品との組み合わせは最悪と呼べる機体となります。
具体的には・・・
下降(上昇気流)と高高度のホバリングには、めっぽう弱い。

結果として、多くの理不尽な墜落を経験しました。(無数のテスト中。数回の実務中)
不思議なのが、瞬間最大風速10m/s超えなどで問題が無いのに、晴れの無風ほどトラブルに入りやすい。
0 [Zero]では、強風などの条件で積極的にテストを実施するのが特徴。
過酷なテスト時に問題を起こさずに難易度の低い、「晴れた無風」の本番時に不安定となる・・・
ひところ(2013年の、機体重量が極めて軽かった時期)は、開発者の頭を悩ましていました。
起こった現象から墜落原因を丹念に検証。
行き着いた答えは、「理想は無視して、DJIの制御に対応した機体の改悪の必要性アリ」でした。
具体的には、「ある程度重く」、「重心は低く」
書いてても悲しくなります。

以下は、2.0kgクラス6モーターの機体重量の主立った推移。(モーター・プロペラは不変)
2012年2月24日 : 稼働開始 (2,095g) 【最大重量】
2012年4月14日 : ジンバル制御サーボに軽量サーボ採用 (1,953g) 【軽量化途中】
2013年5月2日 : 動画仕様Ver2.1 (1,745g) 【最軽量仕様=直後から下降時の突然の墜落発生】
2013年9月6日 : スチール仕様Ver2.1 (バッテリー倍増:1,957g) 【搭載バッテリーを増やし、重量の増加】
2013年10月28日 : 動画仕様Ver2.3 Ver2.2から軽量化(1,888g) 【GoProに搭載カメラ変更=軽量 対策としてバッテリー容量の増量】

「安全は機体重量と直結している」、「フライト時間の持続する範囲を暴走範囲と想定」
この様な事を当初から述べているにも関わらず、ある一点からバッテリー容量の増加と共に機体重量は増加。
その理由は、一定水準の重量を下回ると下降時と上昇気流に極めて弱くなる。
この特性に気がつけたからです。
用いるプロペラ・モーター・投射面積などにより異なるのですが・・・
0 [Zero]の主力の2.0kg 6モーターならば、モーター受け持ち過重を300g以上とするのが、現在の0 [Zero]の基準となっています。
絶対的な軽さを必要とする用途なら、4モーターとすれば良いとなります。
同じモーター+ブロペラなら1.2kgを下回らない設計とすれば良いことになります。

1.0kgクラス 4モーターは、フライト重量:1,010g (2014年8月現在)
1,010g÷4=252.5g
受け持ち過重は、上記の300gを下回っています。
ならば、パーシャル域問題(上昇気流起因の墜落)が発生するかというと・・・
この機体では問題となりません。
2.0kgクラスと比較するとペラの効率は低く、大柄のガードを装着。
この様な機体ならば、受け持ち過重は下げる事が可能になります。
開発当初は想定していませんでしたが、モーター・プロペラの仕様と受け持ち加重のバランスが、モーター数選定の選択肢に入ってきました。
しばらくは、この観点からマルチコプターが語られる事は、0 [Zero]のサイト以外では無いと思われます。
※2014年8月現在は、多くの同業者が受け持ち過重には注目していない事から

なお、この1年間の機体は、バッテリー搭載位置をZ軸方向に動かせる機能が実装されていました。
もしも挙動不審が発生する現場に遭遇した場合には、Z軸重心を現場で動かして挙動を観察する為。
※敢えて重心位置が高いパスファインダーなどを現場で用いていました。
2014年現在では、マルチコプター墜落の原因を上昇気流起因として説明出来るノウハウが蓄積されました。
2013年9月の改修(重量の微増とZ軸重心の低下)以降は、固定ピッチ起因の不安定要素は無くなりました。(螺旋下ろしなどの運用方法も含め)
2014年8月のタイミングで公開となったのは、この件に関して確証に至ったことから。
この1年間で、極低温~極高温や上昇気流下のテストと実務を経験。
1年間のフライト総数で墜落原因は、固定ピッチ+DJI制御アルゴニズムにあるとの結論に至りました。

予告:上級向けの安全な降下方法

ここまで読んで、鋭い方は気が付いたかも知れません。
螺旋下ろしにも、欠点があるのです。
それは、「風が強い日は、螺旋下ろしでは対応出来ない」

0 [Zero]では、「螺旋下ろし」をしていると記していますが実務では少し違います。
確かに風が弱い時は、螺旋下ろしになります。
しかし、上空の風が10m/s超える様な条件では別の手法を用います。
それが、「Z下ろし」
風上に向かうときには、高度を下げる。
風下に向かうときには、高度は下げない。
結果として、「Z下ろし」と言う事です。
「風が強いなら、真下に下ろしても安全では?」
その通りですが、真っ直ぐ下ろす事に抵抗があるために、走らせて機体は回収します。
ここで終わっては、面白くありません。
ノウハウとして公開する予定なのが、「上空で、風の向きと強さをどのように把握するのか?」
刻一刻と変化する風を、どのように0 [Zero]が読んでいるのか?
バルーン空撮のスペシャリストの0 [Zero]だから気がつけたノウハウです。
このコンテンツは、近日公開予定。
安全は譲ることが出来ないと考えているプロの方。
ご期待下さい。

コラム:高高度での突然の暴走現象の解析

解析が済んでいる、「墜落パターン」のひとつをコラムで紹介します。
条件は以下の通り。

・高度100m程度でホバリング。もしくは直下の下降
・機体は突然ハンチングを起こす
・その後に暴走

ピン!と・・・ 来た方がいますね?
そうです。
2014年4月の愛知の墜落の解析です。
これは、明確に原因を指摘出来ます。
電波障害などでは無い。ましてや、バードストライクでもありません。
原因は、上昇気流起因のパーシャル域突入です。
わかりやすく言うと、上昇気流発生時のホバリングもしくは、下降が原因です。
短い間隔のハンチング後に暴走。
上記したとおり、0 [Zero]では、2013年に何度となく経験した現象です。
※再現性アリ
この暴走モードにはいると、GPSモード・ATTIモードともに沈黙します。
早い話が完全なマニュアルモードとなります。
ここに陥ると上空でGPS復旧は無いと思われます。
少なくとも、0 [Zero]で実施された10回程度の再現時には、一度も戻すことは出来ませんでした。

この現象にも言える事なのですが、「再現性があるか?」
ここにつきます。
上記していますが、軽量・コンパクトな機体で重心位置を高く保つと陥りやすい現象です。
具体的にはファントムで、純正位置よりも重心を上げると確実に発生するといって良い現象。
※純正でも同様な現象は発生します
重量や重心位置が純正でも、プロペラ効率を上げても発生しやすくなります。
認めたくは無いですが、ファントムでは、重く・重心は低く・プロペラ効率は低く が吉です。
なお、重量機体でもDJIの制御を用いる限りは、同じリスクが付きまといます。
モーターの最低回転数よりも、高度を優先するというアルゴニズムが狂っています。
ここに関しては、DJI製品の瑕疵と指摘して良い部分です。

問い:
「6m/sの垂直降下で機体の墜落リスクはあがりませんか?」
「ホバリング時でも、6m/sの上昇気流が吹いたら大丈夫ですか?」
「3m/sの垂直下降速度の時に6m/sの上昇気流が吹いているなら・・・落ちますよね?」

マルチコプターは、低い高度では簡単に落ちる事が無い。
上昇気流さえなければ信頼性の高い飛行物体です。
マルチコプターを安全に運用するには、上空の風を読めるかが勝負。
固定ピッチのデメリットを現実的な手法で無効化出来るまでは、家電量販店での機体販売は控えて欲しかったのですが・・・
もう、パンドラの箱は開いてしまったのでしょうが無いですね。

責任が取れないなら、50m以上の高度に上げるな!

重要なので赤で書きました。
固定ピッチである故に、上昇気流に捕まると容易に墜落します。
素人(ほとんどの自称プロ含む)が安全に運用出来るのは、高度20m程度が目安。
高度が低ければ、風速8m/s(砂が飛び始める)程度でも、一般の方でも運用出来る思います。
だけど・・・無風の高度100mには立ち入ってはいけないのです。
簡単そうだけど、マルチコプターは、この条件が一番厳しい。

公開日:2014/08/13
最終更新日:2014/08/13
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