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ドローン空撮[技術解説] - リポバッテリーの検査方法

リポバッテリーの検査方法

リチウムポリマーバッテリーの品質は、ドローン(マルチコプター)の信頼性に直結しています。
2011年から4年間で蓄積された、検査と管理のノウハウを公開します。

マルチコプター動力バッテリーのチェック方法

「工業製品を、容易く信頼しない」
これが、全てのスタートです。
過去の検査やテストから、主に海外メーカー製品の信頼性が劣ることを確認出来ています。
リチウム系二次電池(以下、リポ)の異常発熱・発煙事故は、パソコンやスマホで繰り返されています。
この事実を真摯に受け止める必要があります。
リポは、「高性能であるが、トラブルの可能性が高い」という前提で、機材選定・フライトスケジュールを組み立てる必要があります。

←解説を行うのは、2015年3月に購入された、1.0kgクラス 4モーター の動力バッテリーです。
65C高性能タイプであることから一般的ではありません。(このブランドの通常品は35C)
価格は、通常放電タイプの2倍程度。
流通量は少なめです。(取り扱っていない店舗が多い)
通常放電タイプよりも購入タイミングに気を使う必要がありますが、検査・運用に関する注意点は同じと考えて下さい。

リポに関しては、購入・確認・保管など、各段階で考慮すべき内容は多岐に渡ります。
各段階のポイントを以下にて解説していきます。

マルチコプター動力バッテリーの購入タイミング
1):購入タイミングと購入店舗

重要度:★★★★

リポは、鮮度と温度管理が重要です。
温度は、製造・流通・保管・運用の全ての段階で考慮する必要があります。
流通過程で、高温下に放置される潜在リスクまで考慮します。
・夏期を避けて(12月~6月)の購入が基本

40°C以上の環境下での長時間放置は、性能を低下させます。
製造と流通段階の、リスク低減という観点から購入時期を限定します。
過去の内部検査の履歴から、製造から手元に届くまでは2~4ヶ月という事がわかりました。
ここから逆算し、12月~6月という購入タイミングを導いています。
今回の様な、特殊(流通)なリポは、2月~5月購入がベストでしょう。
店舗にて売れ残っていた場合も、7月生産などというロットを引き当てる可能性が少なくなります。

新品のリポは、50%程度の充電量で流通しています。
この場合は、高温耐性もある程度期待出来るのですが可能な限り高温に接しない事が良いことです。
※満充電の高温環境は特に注意が必要
製造されてから手元に届くまで、高温下に置かれるリスクを下げる。
この観点から、購入時期を定めています。

購入店舗は、「良く回転していること」と、「安定供給が可能」という観点から選びます。
0 [Zero]では、2店舗からの購入を標準としています。
ネット通販A店=Webにて在庫の変動が確認可能(一度品切れとなり、再入荷のタイミンクで発注)
実店舗B店=該当商品の入荷した時期を教えてくれる

2013年以降は、上記のA店・B店のどちらかでしか購入していません。

マルチコプター動力バッテリーの購入タイミング
2):保管温度

重要度:★★★★★

購入後は、保管温度を管理する必要があります。
出来る範囲で、以下の様な温度対策を推奨します。
・バッテリーケース内に温度計
・移動車両に温度計
・車両に遮熱施工
・適正温度を管理出来るバッテリーケースの用意
・適正温度を管理出来る充電ステーションの用意
・事務所保管などの際にも、夏期にエアコンを落とさない

機材車の高温対策

←2013年に導入された機材車の遮熱工事です。
通常は、簡易な断熱材と内装材のみ。
これを、遮熱ペイント+高性能断熱材に改修しています。

撮影現場の近くで、エンジンを切った状態で待機。
この様な状況が撮影現場では頻繁に発生します。
さらに、車両から徒歩移動が必要で車両に残す人員もいない。
この様な条件が、夏期に揃うと車内は高温になります。
冬期の温度低下も、リポには注意が必要なことから、断熱系の工事も同等に施されています。
施工は内製ですが、遮熱材の購入費用で20万円程度は必要です。

リポ管理とクーラーボックス

←機材車に持ち込まれる、バッテリーの温度管理機材群。
やむを得ず、夏期の車内にバッテリーを留める場合は、適切な温度管理がされたクーラーボックスにてリポを保管します。
大型のクーラーボックスが、2つあるのは目的が違うため。
左の小さな白いものは、「保冷剤の保管」の為。
右の大きな白いものは、「リポの保管」の為。
耐火金庫に入った状態で、クーラーボックスに収納されます。

青いクーラーボックスは、車載時の充電ステーションとなっています。

マルチコプター動力バッテリー3):初期電圧の確認
3):初期電圧の確認

重要度:★★★★★

購入直後のリポをバッテリーチェッカーで計測します。
ここでの注目は、バッテリー残量とセル間のバラツキです。
この時点でバラツキが大きい固体は、潜在的なリスクが高めと判断出来ます。
※製造から流通の過程での自己放電が高いセルが組まれている。
以下が2015年現在の0 [Zero]の内規。
・各セル間のバラツキは、0.02Vまで

なお、過去に購入しているリポは、50~60%程度の充電量で購入しています。
旅客機の安全確保の観点から、工場出荷時の充電量は下げる方向性に向かっているハズですが・・・
2015年3月現在、充電量30%で手元に届いたことはありません。

今回のページ記載の為に、過去の購入履歴を調べました。
最近のロットでは、この時点で落ちている個体は確認出来ませんでした。

マルチコプター動力バッテリーの製造ロットの確認
4):製造ロットの確認

重要度:★★★★

店舗での長期在庫などという場合は、この時点でチェックが出来ます。
経験したことはありませんが、製造から1年以上を経過した「新品」なら、廃棄が正しい方向でしょう。
休業時のラジコン店の店内が高温になる可能性を消せません。
2011年から現在まで、購入時点で3~5ヶ月経過というのが多いパターンです。
2012年12月に、静岡から大阪の量販店の在庫チェックを実施しました。 参考:50) リチウムポリマーバッテリー考察

この個体の購入は、2015年3月。
製造は、2014年12月なので、製造から流通の仮定で高温下に置かれたことは無いと推測出来ます。

参考【公開日:2014/04/17】:97) リポバッテリー内部検査の理由

マルチコプター動力バッテリーの打痕チェック
5):打痕チェック

重要度:★★★★

打痕には2種類あります。
・工場で付いた物
・流通過程で付いた物

工場で付いた物なら、程度によりメーカーの姿勢を計る指針となります。
流通過程で打痕が付く可能性は低いと言えます。
今回の個体では、この打痕が最大の物。
この程度では問題が無いと判断しました。

マルチコプター動力バッテリーの購入タイミング
6):接点ハンダの確認

重要度:★★★★

過去の経験から、以下の様な観点で検査が必要です。
・ハンダのツノによりパッケージ破損の可能性
・ハンダ不良

今回のロットは優秀でした。
組み立て工程の職工が優秀です。

ハンダのチェックは、全ての個体に毎回必要です。
ここは、職工の技術に頼らなければならないところです。
不慣れな方が組んだパックで検査も粗ければ、リスクが高い個体が流通する事になります。
過去の事例でも、多くの潜在リスクが高いパックが確認出来ています。

マルチコプター動力バッテリーのコネクタの取付
7):コネクタの取付

重要度:★★★★

用途に応じたコネクタを取りつけます。
購入時に取りつけられているコネクタを用いる場合も、検査は必要かと思います。
その際には、保護材を外す事になります。
結果として、付け替えてしまっても手間はかわらないとも言えます。
ここでは、軽量化と信頼性向上の観点からピンコネクタに交換されています。
このコネクタは、比較的高価な物ですが、再利用は禁止です。
1年程度の実務後に、リポと一緒に廃棄されます。

マルチコプター動力バッテリーのパッキング
8):パッキング

重要度:★★★★

オリジナルの外装フィルムの再利用は出来ません。
適切な方法で、パッキング必要になります。
ここでの注意点は、「適切な太さの熱収縮チューブを用いる事」
大きすぎるチューブは、不要な重量増を招きます。
また、スジなども入りやすいことから美観的にも問題となります。
0 [Zero]では、年間で50本前後のリポの内部検査を実施しています。(過去4年間の履歴から)

リポのパッキングセット

0 [Zero]では、撮影機材という観点から、2012年当時(最初期の内部検査)から、黒いフィルムでパックしています。

←これが、リポのパッキングセットです。
シュリンクフィルム(P.P)を4サイズ。
マジックテープを4色。
水没シールなどを容易しています。
地味ですが、このセットで3万円程度のコストです。

マルチコプター動力バッテリーの誤装着防止
9):誤装着防止

重要度:★★★★★

0 [Zero]では、同等クラスのリポ(3C 2200mA)を3種類実務で用いています。(一部は、バルーン空撮用)
誤装着は事故原因となりえることから、マジックテープの色や方向により誤装着を防止しています。
なお、今回のリポは、1.0kgクラス 4モーター用です。
この機体は、65Cリポを用います。
ここに、35Cなどの通常のリポを用いると、常温でも離陸1分後に電圧低下が発生し墜落に至ります。
青いマジックテープが付いているリポ(35C)は、コネクタ形状が異なります。
この様に、物理的に取り付かない様にして誤装着を未然に防ぎます。
用途が異なる事から、マジックテープの貼る位置も微妙に異なります。

マルチコプター動力バッテリーのフライトテスト
10):フライトテスト

重要度:★★★★★

十分な経験を積んだ2015年現在では、必要以上のフライトテストは実施していません。
これは、実務でも半分程度までしか使わないというフライトスタイルに起因しています。
数回のテストフライトで、目的は達成出来ます。
ただし、実務で10%台の残量まで攻め込むようなスタイルなら、エージングを兼ねたテストは必要かと思います。
自己責任でお願いします。

参考までに、初期(2012年頃まで)のテスト方法をご紹介します。
・用いる機体の負荷を想定したベンチを用意
1):満充電後のリポを50%まで放電
2):十分な時間経過後に1C充電
3):十分な時間経過後に30%まで放電
・2~3を4サイクル繰り返し、充放電量を台帳に記載。
全ての検査対象に、上記を繰り返し、各固体間の変化を観察。

最初期には、この様なテストを実施しクラス分けを行いました。
積極的に低ランクの物から用いて、耐久限界を探っていきます。
その後の半年程度の実務後に、2サイクルのテストを実施し初期性能と比較しています。
また、並列機体の導入時に、この方法にてペアリングを行っています。
ここまで、やった後に、「以降に同様のテストは必要無し」との判断をしています。

0 [Zero]のテストのみを鵜呑みにするのは危険です。
ご自分で、この様なテストを実施して正しい知識を身につけて下さい。

11):気圧変化対応

重要度:★★★★

海外の撮影を想定されている方には、実施していただきたいのが減圧テスト。
機内で想定される低気圧環境+αの条件にて、振動を与えつつ長時間のテストを行いところです。
理想的には、高度1.1万mテストを実施すれば完璧かと思います。(航空機事故の急激な減圧まで想定)
0 [Zero]では、飛行機による移動が必要な撮影案件の受注を自粛していることから、このテストに関しては未実施です。

なお、上記のテストを実施しても移動中の充電量は厳密に管理して下さい。
事故低減の観点からは、30%程度の充電量で移動することが良いでしょう。

公開日:2015/03/29
最終更新日:2015/04/01
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