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ドローン空撮[技術解説] - リチウムポリマーバッテリー考察

リチウムポリマーバッテリー考察
パッケージを剥がしたリポバッテリー

実務経験から、業務により理想フライト時間が違う事に気が付きました。
フライト時間の短い業務に対応するために、容量の少ない軽量バッテリーを新規に用意。
また、新たな試みとしてバッテリーの搭載位置の積極的な可変構造も採用します。
1年間の開発と実務により蓄積されたノウハウの一部を公開します。

実務では大まかに二つのタイプがある事がわかりました。
「決められたワーク」「上空で待つフライト」の2種類です。
前者はドラマなどの撮影。実際に使われる時間は長くても1分。
現場セッティングと機体回収時間を考えても3分が平均的なフライト時間。
後者はスポーツ・ドキュメンタリー系の撮影。
上空で被写体を待ち構える様な撮影スタイルになります。

「決められたワーク」=ドラマ撮影では演者に寄ることを求められます。
つまり、軽量(安全)重視という撮影。

「上空で待つフライト」=スポーツ・ドキュメンタリー系では寄りよりも全体説明が空撮の目的。
つまり、究極の寄りは必要無い。
しかし・・・タイミングがある程度しか予測出来ない。
「特定の人物が撮影ポイントに入ってくる」などが具体的な撮影内容。
その瞬間を撮るには上空の待機時間が必要。

理想重心点に積むバッテリー 各々の実務に特化した機体を用意するのがベストなのですが・・・
バックアップまで考えると完全な二重化は今のところ困難という状況です。
そこで、一機でどちらの業務もカバー出来ないか?が今回のスタート。
つまり、バッテリーの重さが変化することを前提とした機体設計。

ここに記されている、「バッテリー重量の積極的な可変は危険」です。
このページを見て、ご自分の都合の良いところのみにフォーカスし安易に真似ることは止めて下さい。
その行為は確実に想定外の墜落リスクを増やすことにのみ作用します。
←例えば・・・
今回の改修では0 [Zero]の機体のバッテリー搭載位置が改められます。
バッテリー搭載位置やバッテリー容量を動かしても、Z軸方向の重心移動は発生しない設計になっています。
ポイントはバッテリーZ軸と揚力発生Z軸を同じとする点。
※厳密に言うと・・・少し動きます。
今までの機体と比較すると、重心は下がる方向へ。
つまり、運動性能悪化に目をつむって、バッテリー移動を選択した機体になります。
なお、上の写真は組み立て途中。
後ろに伸びるカーボンプレート上に2本のバッテリーを立てて搭載します。
最終的にはカーボンアングルを用いたパーツで制作するのですがこの時点では手に入っていません。
(アングルを外注にて制作中)

なお、X軸重心(Wookong-M設定)に関しては重心をセンターから積極的に移動出来る事も、今回の機体のポイント。
ワークの関係から、強い向かい風の中で、「可能な限り早く」などというワークが現場で求められる。
この様な時に、重心を前に移動して直進速度を稼ぐなどという時に用います。
ここで、Z軸重心が動かない事がポイントになります。
Z軸重心が動くと言う事は機体制御のパラメーターも動かす必要性がある事を意味します。
Z軸重心が固定でX軸重心が動くと言う事は・・・強風の中でホバリングをしているのと同じ意味なのでパラメーター設定は無視できます。
ただし・・・向かい風に直進という設定なら・・・ワーク終了後の回収はケツホバで戻す必要があります。
ここで、反転すると、X軸重心が前重心の機体なら制御の限界を迎える事も想定出来ます。
つまり・・・
X軸重心可変はメリットもあります。
しかし、使いこなすのは一定レベル以上の知識が必要。

また、求められるワークは0 [Zero]以外では必要としないであろうという動き・・・

なお、このメリットは簡単な作業で実感することが出来ます。
バッテリーをいつもより、前に搭載(数cmという単位)。
これで、重心を前に移動します。
そして・・・無風条件下で直進をしてみて下さい。
直進速度は向上し、機体安定性も良くなります。(あくまで、直進のみ)
プロの現場では風速10m/sでも「何か撮って」を求められる。
例えFIX(ホバリング)でも、より良い映像を撮影するには積極的な重心可変のメリットがあるのはわかって頂けると思います。
ただし・・・
マネをするにはマルチコプターの重心に関する理屈を完璧にマスターする事が条件です。

バッテリー選別

バッテリーの選択

開発初期にも、リチウムポリマーバッテリーの選別には触れています。
その当時は開発初期である事から敢えて、安価なブランドを採用していると記しています。
そのページを書いたのは2012年2月。
本格的なマルチコプター開発から3ヶ月のタイミングです。
現在は2013年1月。
十分な技術蓄積も出来たことから、高級バッテリーの採用に踏み切って良いと判断していました。
具体的なブランド選択に入ったのは2012年11月。
候補の筆頭と考えていたのがサンダーパワー(国内代理店K&S)
いつもの安価なブランドと比較すると、スペック上では30g程度の軽量化が可能であると試算されました。
国内価格は2~3倍程度上がりますが30gの軽量化の魅力には勝てません。(既に、この単位の削りに入りました)
必要とする本数は20~30本。
大きなショップでも、ここまでの在庫は持たないことから、取り寄せが必要と感じつつ発注はしていませんでした。
発注に躊躇していのはリポの鮮度を考えてから。
電圧を適切に下げた状態でも、自然劣化が激しいのはリチウムポリマーバッテリーの特性です。
保管中の温度上昇やロットのバラツキも避けたいところ。
2012年秋の段階でのサンダーパワーの取り扱いは・・・非常に細いというのがユーザーからの印象。
ネットも実店舗も、取扱量は少なめです。
つまり・・・
取り寄せしても、鮮度が落ちたバラツキ(ロット違い)のバッテリーが送られて来るのでは・・・と心配していたのです。
サンダーパワーの採用を考えていたのは軽量化と同時により高い安定性を期待したから。
それがロット違いなどとなってしまうと・・・本来の意味が無くなってしまいます。
ここで、決定打とのなる出来事が起こります。
国内代理店のサイトからサンダーパワーの商品が削除。
つまり・・・取り扱いが無くなったと判断出来ました。
もちろん、海外通販という選択肢もあるのですが・・・ロットを揃えたいという観点からは問題も多い。
結局はいつもの安価なメーカーを採用という流れになってしまいました。

配線の確認
安価なメーカー = 過去最高の品質

「いつも」の安価なメーカーのバッテリーを20本ほど取り寄せました。
過去には問題と感じるレベルの半田付けがされてるいこともあるメーカーです。
20本をいつものように、充放電テスト。
その後に、内部検査を実施したところ・・・

素晴らしい品質でした。

パッケージを剥がし、並べた段階で、「良い雰囲気」が感じられます。
大量なバッテリーを内部までバラしていくと、微細な問題は発生します。
組み立て途中に出来たと思われるセルの打痕やハンダの修正跡。
過去にも、保護材の長さが足りないというパックもありました。
しかし、致命的と呼べるレベル物は無し。
ハンダが修正されているなどという物はB級品としてテストに使用。
11ヶ月前の選別では半数程度をA級として選別しています。
記事は起こしませんでしたが4ヶ月前にも同数の同じバッテリーを購入。
その時には8割をA級に選別しています。

今回のバッテリーは・・・
B級落ちしたのは1本のみ。(充放電チェックで落選)
目視検査では全て合格。
この1年に限っても、急速に品質が向上しているのが手に取るようにわかります。
これなら、安定供給に不安があるサンダーパワーよりも選ぶ理由があります。

リポのロット番号
ロット番号

セルメーカーが記したと思われるロット番号。
今回購入した20本(該当店舗の全ての在庫)は1211 LKWLK01T315 と記されてます。
1210の方は静岡の実店舗にて購入したバックを剥がした物。
つまり・・・少し古いロットの様です。
夏期を過ぎた段階でのロットナンバーと推測出来る事から、大きな問題とは感じません。(2012年春なら大問題)
しかし・・・ロットは合わせたいところ。(充放電チェックでも、優秀であることを確信)
この1211で、業務用のバッテリーを揃えたいのですが・・・
ネット販売ではここまでの特定は困難。
そこで・・・
静岡~愛知~大阪までの実店舗巡りを実施。
在庫を持っている店舗にて1本購入。
その場でパックを剥がしてロットナンバーを確認。
該当ロットなら、店舗在庫を全て購入・・・

ここまでやって、1211のバッテリーを10本用意出来ました。
これで、30本のS級と呼べるバッテリーを用意。
2013年6月まで使用するバッテリー(軽量)は用意出来ました。
6月に、次の半年用のバッテリーを再購入。
このタイミングなら輸送中や店舗等での高温劣化は避けられます。

リポのペアリング
さらに軽量化

純正のコネクタ(ウルトラプラグ)から、高品質なゴールドコネクタに変更。
想定放電電力ではオーバースペックとなるハーネスも短縮。
さらに、内部のグラステープも、必要以上の部分はカット。
ちなみに、グラステープのカットで1g程度の軽量化。

リポのグラステープ
バランス取り

充放電の数値から、同じ傾向を示すパックでペアを組みます。
日々の使用で、Aパック・Bパックの充電容量をチェックすることにより内部劣化の兆しを監視。

なお、別ロットのバッテリーを同様な方法で4ヶ月使用しています。
この管理方法で、今のところは問題は感じていません。

コラム:安いリポで良いのか?

高くて高品質なリポバッテリーを0 [Zero]では欲しています。
内部検査など一切不要な、真のプロ用と呼べるバッテリーを・・・

現実世界にはその様な物は存在しません。
安易なホビーユーザーはコストパフォーマンスという言い訳をしつつ安価な商品を手にする。
ユーザーが安価な物を求める以上は供給サイドはさらに低コスト化に走る。
国内代理店のサンダーパワーの取り扱い中止はこの事実を見せつけています。

今回の0 [Zero]の選択は流通量が豊富な安価なメーカーを選択しています。
結局のところ、リチウムポリマーは鮮度も重要な性能の一つ。
この鮮度を優先した選択をしました。
認めたくないですが「高価で流通量が少ない」よりも「安価で流通量が多い」方が総合的に優れるという判断です。
ただし・・・
プロが業務で使うには信頼性は譲れない。
今回の様に、足を使ってロットを揃えるなどという事が必要になります。
移動費と人件費を加えれば・・・原価2千円のバッテリーは1万円を超える価値となってしまっています。
結局は・・・高いバッテリーになっています。

2013年1月現在。
動力バッテリーは安価な物でも良いのか?と問われれば「Yes」となります。
ただし、内部検査は必須。
可能であれば並列使用でパックのバランス取り。
そして、プロならばロットを揃えるなどというレベルの作業が必要。
ただし・・・
国内の同業者で、バッテリーの内部検査レベルの実施に達していない方がほとんど。
もちろん、サイトの方には、「安全に留意して」とか「独自に開発」などの言葉が乱舞。
どの程度のレベルで、「開発」と呼べば良いかの規定などありませんが・・・
「安価」という部分のみマネはしないで下さい。
最低でも充放電テストと内部検査。
流通過程も含めてセルが損傷しているという想定は必要です。

公開日:2013/01/01
最終更新日:2013/06/30
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