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バルーン空撮[技術解説] - 専用車両の集中メンテナンス

専用車両の集中メンテナンス
空撮専用車両

車載式バルーン実用化の最大の障害となるのが専用の車両です。
必要ヘリウムガス量から算出すると輸入商用バンが唯一の選択肢。
0 [Zero]では、この車両のメンテナンスも内製です。

バルーン空撮専用車両とは?

0 [Zero]は様々な独自機材を用いています。
高性能なパソコン撮影補助機器など、空撮実務に特化させた機材を多数用いています。
極めて特殊な性能要望であることから、その多くは内製されています。
その多くの特殊機材の中で異彩を放っているのが、バルーンを運搬する専用車両です。
この、「車載式バルーンの要」と呼べる専用車両を解説します。

代々木バルーン空撮 車両導入は2008年。
既に8年の稼働実績があります。(2016年の時点)
車載式バルーンは、この車両に搭載することを前提としてサイズや形状が設計されています。
フルサイズデジタル一眼レフを搭載する車載式バルーンを実現するには、このタイプの車両を採用するしか方法がありません。
専用車両には以下の様な性能が求められます。
・室内と荷室が繋がっていること
・可能な限り大きな容量(7立米以上)
・テールゲートが観音開きであること

車両を導入した2008年当時に必要性能を唯一叶えることが出来たのが、メルセデス・ベンツT1N(スプリンター)でした。
その当時に、ハイエースやアルミパネルバンなども導入候補として検討してます。
ハイエースでは、絶対的な容量が足りない。跳ね上げ式のテールゲートも不向き。
アルミパネルバンでは、荷室と繋がっていないことから長距離移動時の気圧変化や、夏期の温度変化に対応することが出来ない。
メルセデスなら海外での車両確保も容易。(ハイエースは、欧米では販売されていません)
この様な事から車両選定がされています。
この車両は導入から8年が経過しました。
走行距離も20万kmとなったことから、普通なら車両入れ替えが発生します。
しかし、以下の理由から入れ替え計画はありません。
・メルセデス・ベンツT1Nは、正規輸入が途絶えている
・車両が代わると、バルーンの再設計が必要
・車両にはバルーン空撮用の様々な改修が必要

最大の問題が、正規輸入されていないという点です。
欧州各地の他、アジア圏でも正規輸入されているのですが、国内では正規輸入が途絶えたままです。
VW・プジョーなど、各自動車メーカーでも同様の車両が用意されているのですが、国内には正規に入っていません。
正規で入っていないと言うことは、日々のメンテナンスでも大変困ります。
簡単な部品でも入手に時間が必要。
特殊な車両であることから、プロもメンテナンスをしたがらない。
ドライバーの整備スキルが無いと、遠隔地で不動車となってしまう潜在的なリスクを抱えています。

様々なデメリットがある車両ですが、これが無いと車載式バルーンが成立しないと言えます。

鹿児島実業エントランスにて
0 [Zero]特有の問題

←鹿児島にて準備中

この8年間で、北海道~鹿児島まで撮影実績が出来ました。
車載式の最大のメリットである機動性。
確かな実施テストを根拠とする信頼性。
そして、圧倒的な画質。
全国から、「0 [Zero]でなければ、撮れない」という撮影案件で、お声がけをいただいています。

欠かすことが出来ない重要な機材ですが、大きな欠点が存在します。
それが、「普通に整備できる工場が皆無」であることと、「部品の入手性」です。
出先でトラブルが発生しても、基本的には誰も修理を受けてくれません。
もしも、出張先でトラブルとなった場合は、自身で解決することが基本的な姿勢として必要です。
それでも特殊な計測機器を必要とする整備は発生します。
その場合は、予約を取った上で然るべき整備工場に入れる事になります。
この場合も、業務の特性から多くの日数を割くことが出来ません。
「天候条件などにより、2週間撮影が出来ない」などは普通に発生します。
しかし・・・スタンバイする必要があることから、工場に入庫が出来ないのです。
各所が専用に改修されていることから、代車も不可能です。
過去には、部品の入手という観点から、用いている車両のショートボディーをスペアとして用意していた時もあります。
※ドローン専用の機材車としてハイエースを入れる段階で処分済
ここまでして維持している車両です。

この様な複雑な条件から車両のメンテナンスは、空撮の空き日程で内製することが基本となっています。

空撮専用車両
2016年夏の集中メンテナンス

ここからが本題です。
2016年夏の段階では、以下のメンテナンスの必要性が発生していました。
・高速道路の上り坂で速度が出ない
・エアコンが効かない

この二点は、1年ほど前から前兆が出ていました。(2015年夏)
どちらも専門的な知識が必要であることから、外部工場に入庫する事を前提に、2015年の晩秋から準備を進めていました。
解析~部品発注~修繕。
部品の取り寄せが確実に発生することから、最低でも2週間の入庫を覚悟する必要があります。
この期間は業務が出来なくなることから、2015年12月には、初めての1ヶ月の車両メンテナンスによる業務休止という体制で準備を進めていました。
予定通り、入庫するというタイミングの直後で・・・
「どうしても、近々に撮影したい」というお客様の要望に応えるために入庫のキャンセル。
2015年12月の集中車両メンテナンスは不発に終わります。
車両は抜本的な改善を図られないままで、2016年の夏を迎えてしまいました。

2016年初夏の頃から、エアコンが効かずに難儀していました。
高速道路の上り坂では、気をつけないと60km/h程度まで速度が落ちてしまうという状態です。
直ぐにでもプロのメンテに入れたいところですが、この年は5月から仕事が途切れること無く続いていました。
つまり・・・入庫は出来ません。
そんな中で、お盆休み期間中に、一定の仕事の切れ間が発生しました。
しかし、このタイミングでは工場もお休みとなっています。
そこで導き出された答えは、「休み期間中に社内でメンテナンスを実施」でした。

メルセデス・ベンツT1N タービン確認

◆高速道路の上り坂で速度が出ない
現象からトラブルの発生原因を吸気系と絞り込んでいました。
確認の為、吸気系の関連部材を分解して原因を探ります。
その課程で、明らかに劣化している負圧ホースを確認。
この部品をストックしている汎用ホースに交換。
これで、出力は戻りました。
なお、バラシついでに、重要部品の劣化やオイル漏れなども同時に確認します。
最終的にはタービンの劣化具合なども確認されています。

メルセデス・ベンツT1N ヘッドライト分解

◆エアコンが効かない
各所を確認したところ冷却ファンの一つが止まっていました。
本来なら新品交換をしたいところですが、電装店が夏期休業に入っていることから部品の入手は困難。
モーターは、ドローンにより専門知識があることから・・・
非交換タイプのモーターですが、強制的に分解して修理を行いました。
写真は施工前の状態。
モーター修繕後にケースは再塗装しています。
分解のついでに、コンデンサからのガス漏れの確認と洗浄を行っています。

メルセデス・ベンツT1N ヘッドライト分解

◆防錆作業
この様な錆対策の塗料類は常に備えています。
エアコンのコンデンサファンの修繕と同時に、気になるところには錆止めを施工します。
空撮専用車両として数年は入れ替えが困難です。
この様な作業は定期的に行っています。
また、この様なメンテナンスの際に、足回りなどの交換部品を確認します。
走行距離から各種ブッシュの交換と劣化具合から排気系のメンテナンス今後は実施します。

メルセデス・ベンツT1N ヘッドライト分解

◆分解ついでの整備
今回は、ヘッドライトなども外して吸気系の確認をしています。
その課程でライト内も清掃を実施。
購入後初めてのメンテナンスとなります。
同様に外した部品の清掃と確認を行っています。
交換時期に達していると思えた部品(エアフィルター・燃料フィルター・エンジンマウントなど)も10点ほど発注しています。
この様な部品は到着後に随時交換となります。

公開日:2016/08/23
最終更新日:2016/08/23
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バルーン空撮技術解説 関連リンク

41) 専用車両の集中メンテナンス
40) α7RⅡ狂想曲:その9 Vix
39) α7RⅡ狂想曲:その8 ThinkPad P50考察
38) α7RⅡ狂想曲:その7 ThinkPad P50到着
37) α7RⅡ狂想曲:その6 バルーンを独自開発する空撮会社
36) α7RⅡ狂想曲:その5 レタッチャー用ワークステーションのテスト開始
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34) α7RⅡ狂想曲:その3 超高解像度パノラマ加工に必要なパソコンとは?
33) α7RⅡ狂想曲:その2 現場で必要なパソコンとは?
32) α7RⅡ狂想曲:その1「α7RⅡ」後という世界・・・
31) α7Rの業務投入開始
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27) α7R ILCE-7R到着
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25) 強風下の撮影を可能にする「ヒューズ」
24) ミラーレス一眼はバルーン空撮のスタンダード
23) 眺望撮影の、「良い例」と、「悪い例」
22) 2009年版:空撮プロが使うレンズ
21) 0[Zero]のバルーンが風に強い理由。その1「尾翼が大きい」
20) 最大風速13m/sの乱流下のテスト画像公開
19) 開発失敗バルーンの例
18) バルーン小型化の研究
17) バルーン独自開発の道程
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15) 新型の開発は一時停止
14) バルーン繋留角度解説
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10) 空撮の保険について考える
9) 2008年版:空撮プロはどのデジカメを使う?
8) ヘリウムガス不足と値上状況
7) 標高2100m:高地撮影テスト
6) 機材開発例:レンズマウント
5) バルーン空撮と風について
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2) バルーン空撮専用車両
1) バルーン空撮とヘリウムガス

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