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バルーン空撮[技術解説] - 強風下の撮影を可能にする「ヒューズ」

強風下のバルーン空撮例【鹿児島県】

注意:
特定条件下にての強風撮影について記されています。
すべての業務で、このような強風下での撮影を保証するものではありません。

←2010年5月17日 14:00
スカイコミック空撮から【鹿児島実業】
平均風速6.9m/s
最大風速12.3m/s(気象庁気象データ検索から【鹿児島観測ポイント】)

学校の校庭や河川敷など、安全な場所に限っては風速10m/sを超えても実務を行う場合があります。

ここでは特殊条件下の強風撮影について解説します。

このサンプル撮影時は時折10m/sを超える強風。
現場には数百人のギャラリー。
地元の新聞社などの取材陣も入っています。
いつも以上に、絶対に事故を起こすことの出来ない条件がそろっています。

繰り返しとなりますが通常業務では強風時の撮影はお断りしています。
特に都市部でのマンション撮影などは精度を高める観点からも、風がない条件のみの撮影となります。
しかし、どうしても空撮が必要な場合に限っては特殊な撮影方法にご理解を頂いてから撮影を行うこともあります。

・ある程度の画像のクオリティが落ちる事
・バルーンが落ちる可能性がある場所に人が入らない事
・バルーンの高度は最大で30m程度
・撮影が出来なくても弊社が免責を負わないこと

以上を認めて頂ける場合にのみ、撮影に入ります。

この様な条件でも、0 [Zero]は安全のポリシーを曲げません。
あくまで安全が第一と考えます。

ここでは強風下でも重大な事故を起こさない為に取り付けられているパーツ(設計思考)の、「ヒューズ」を解説します。

もっとも大切なのはバルーンを飛ばさないこと

公園バルーン空撮

バルーン空撮最大の事故。

それはバルーンの浮遊事故。

浮遊事故とは何らかの理由でバルーンを係留しているロープが切断。
それにより、空撮用のバルーンが制御できずに上空に漂う事故です。

バルーンが海洋などに墜落すれば良いのですが電車・飛行機の接触など、最悪の場合は重大事故の原因となりかねません。
故に、バルーン空撮最大のタブーと呼べます。

この事故の直接的な原因は係留ロープの切断。
つまり、風によって設計強度を上回る力が掛かったり、建物に接触したことによりロープが切断された事が原因です。

この浮遊事故を調べると、興味深い傾向が見て取れます。
事故のほとんどは3~8m/s程度の、それほど強くない強風下にて発生しています。(※1)
バルーン空撮は0~3m/s程度の風で行われるのがほとんど。(他社の基準から)
風は生き物です。
3m/sの風で撮影を始めても、突風は8m/s吹く可能性も十分あります。
他社のバルーンとオペレーターは、「突風に対応出来無い為に事故に至る」というのが当社の分析です。

0 [Zero]はバルーン空撮の開発初年度(2007年)から浮遊事故が一例もありません。

それは開発当社から浮遊事故を最大の事故と仮定し、徹底的にこの可能性を除いていたからです。
常に、係留ロープは想定加重以上の強度を持たせる。
係留ロープは湿度と紫外線から強度が落ちてくることから定期的に交換。
そして、「ヒューズ」と言う考えが盛り込まれたバルーン設計。
この様な多重の安全対策をバルーンには施しています。

対風ヒューズと言う考え

強風下のバルーン空撮例【鹿児島県】

強風時のバルーン空撮には以下の様な事故の可能性があります。

1):乱流による樹木などへの接触
2):下降気流による地面への接触
3):係留ロープの切断

1と2の、「接触」に関してはバルーン空撮を行う場所に原因があります。
これは校庭などの安全な場所で行うことにより、事故の可能性は無くなります。

さらに、墜落しても人に接触しない距離を保てば、人身事故などの可能性はゼロになります。
この鹿児島での空撮例はこの手法にて撮影されています。
バルーンは画像内の右側に位置しています。(スカイコミック:遠藤選手コマの頭の方向)
この画像でも下降気流で地面に接触する可能性のある、右側にはギャラリーを配していない事がわかると思います。

本題に入ります。
対風ヒューズは「3):係留ロープの切断」に関しての安全策です。

定期的な係留ロープの安全確認を怠らない会社なら、想定内の風ならば「3):係留ロープの切断」の可能性は無くなります。
0 [Zero]では瞬間風速15m/s以上のテストは繰り返し行っています。
しかし、瞬間最大風速20m/sなどという風は想定外の風となります。
この様な、強烈な風が吹いた場合に万が一の浮遊事故を無くすために、強制的にバルーンに穴を開けて地面に下ろすと言う設計が「ヒューズ」という考えです。

0 [Zero]では様々なタイプの、「ヒューズ」を考案しています。
・第1世代:係留ロープの取付部分にヒューズ
・第2世代:保持棒を破断させバルーンに穴を開ける
・第3世代:第1世代の信頼性を改善

バルーンヒューズコンセプト第1世代

第1世代:係留ロープの取付部分にヒューズ

この2年間で、主なヒューズの設計は3種類を試みました。
第1世代は、「取り付け部の剥ぎ取り」という原始的な方法です。

4カ所程度のヒモで係留ロープとバルーンを拘束します。
この4カ所の中で、特定の場所だけに係留ロープの力を集中させます。
想定以上の力が入ると、この一カ所だけが破断するという設計思考です。

実際の業務では1度だけヒューズが働きました。(2009年秋:福島にて)
その際に特に問題は感じなかったのですが瞬間的に莫大な力が掛かると、すべての係留ポイントが同時に剥ぎ取られるという可能性が否定できませんでした。

この剥ぎ取られた場所からヘリウムガスが抜ける為に、数kmもバルーンが漂うという浮遊事故には至りません。
しかし、バルーンと係留ロープが放れることから、落とすところを選べないというのが最大の欠点でした。

なお、1度だけヒューズが働いた際は完璧と呼べるクオリティでバルーンが回収出来ています。
バルーン本体の下側に、20cm程度の穴が空くことから、ここからゆっくりとヘリウムガスが抜けます。
上空では徐々にヘリウムガスによる揚力が無くなる。
バルーンの姿勢は風による揚力を発生させる、後ろ下がり。
結果として、着陸するように地面に回収出来ています。

バルーンヒューズコンセプトト第2世代

第2世代:保持棒を破断させバルーンに穴を開ける

第2世代では、「何が何でも係留ロープが切れない」がコンセプトでした。
係留ロープとバルーンは強固に取り付け。
ヒューズは特定のカーボン棒が折れて、その棒がバルーン本体に接触して穴をあけるという設計です。
←写真はどのような方法でバルーンに穴を開けるかの検討中の資料から。

この方法では浮遊事故はあり得ないのですがバルーンに開ける穴の大きさと位置がコントロール出来ないことが問題でした。
穴がコントロール出来ないと、地上に降りるまでの時間のコントロールが出来ませんでした。
「穴が大きいと早く落ちる」
「ヒューズの効き方にムラがある」

大きな問題は無かったのですが洗練させれていない方法でした。

この設計は2009年12月から2011年1月まで。
ヒューズは2回働いています。
どちらも、バルーンの浮遊事故の不安はゼロ。
カメラなども壊れずに回収出来ています。
問題はヒューズが働いてから、地上に降りるまでの時間がコントロール出来ないこと。
想定以上の穴が空いた場合は数秒で地上に降りることが欠点でした。

バルーンヒューズコンセプト第3世代

第3世代:第1世代の信頼性を改善

第2世代ではヒューズが働くと想定以上の速度でバルーンが降りてくるという欠点がありました。

第1世代ではキレイにバルーンを回収できるのですが浮遊事故の可能性が怖い。
そこで、第1世代の信頼性を改善し、ゆったりと降りてくるのに浮遊事故が無い様に改善されたのが第3世代となります。

第1世代よりも壊す場所と壊さない場所を極端に作り替えています。
←写真のパーツは第1世代の青い部分と同じ場所。
応力はカーボン製のL型アングルで面で捕らえます。
ここが壊れない場所。
この様な強固な場所を複数個設けます。

壊す場所は第1世代の様な簡易な作りとします。
想定以上の力が働くと、ヒューズとなる簡易な場所が破綻=ガスが抜け始める。
ガスが抜けるのはバルーンの下側且つ小規模。
確実に抜けますがゆっくりと抜けてきます。
残った係留ポイントは非常に強固な構造。
風速25m/sなどでも耐えられる構造になっています。
ヒューズ作動後は迎角が自動的に大きくなり、風による揚力を最大限に利用しつつバルーンを回収します。

第3世代の欠点は重量増。
カーボンを用いて極軽量に仕上げていますが第1世代よりは重くなります。
しかし、余計なパーツが無くなる事から、第2世代よりは軽量になりました。
最低限の重量増で、信頼性は大幅に向上していることから、今後数年は第3世代のブラッシュアップに努めます。

0 [Zero]は具体的なテスト結果によりって安全性を示します

0 [Zero]は空撮用バルーンの開発・製造を自社で行う、数少ない空撮会社です。
機材は風速10m/sを超える様な過酷の条件下でテストを行い、その結果を可能な限り自社ホームページで公開しています。
このページではバルーンのヒューズについて述べられています。
第1世代から数えて3回の実務での作動がありますがこの時の気象データ(撮影位置を含む)などに関してはご契約前にお問い合わせがあった場合に関してはすべて明示させて頂いています。
特に安全を考慮する必要がある撮影案件の場合はお問い合わせください。

また、この様な特殊条件の撮影に関しては現場にての正確な判断が重要になります。
撮影当日でも安全に関わると判断した場合は撮影を中断ならびに、延期する可能性があることをご承知置きください。

公開日:2011/01/26
最終更新日:2013/08/20
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