「某自動車サイトのQ&Aと同じ質問にブログもどきが答えます」の第四十六弾。
今回は、「どこまでを技術と呼ぶのか」によって答えが変わる、というお話です。
Q:自動車関連の記事で「モータースポーツで培った技術が生かされた〇〇」というフレーズを目にすることがありますが、いまどきそうした例はあるのでしょうか? 自動車創成期ならともかく、今は宣伝のために後付けした文言ではないかと思えるのですが。
引用元 : 「レースの技術」は本当に市販車に生かされているか? - webCG」
https://www.webcg.net/articles/-/49260
回答例(webCG)
A:かつてのイメージでいうところの“技術的フィードバック”は、ご指摘のとおり、現在は「ない」といっていいでしょう。
夢をぶち壊すような話ですけれども……。
引用元 : 「レースの技術」は本当に市販車に生かされているか? - webCG」
https://www.webcg.net/articles/-/49260
以下、私の回答。
確かに、そのままのフィードバックは無いですね。
多田さんが言われているように、レース用マシンと市販車は性能を追求する方向性が大きく異なり、単純に「レースで勝った技術を市販車へ」という時代ではなくなっています。
ただし、ここで重要なのは「何を技術と呼ぶか」です。
例えば、レース専用の空力パーツや特殊な機構を、そのまま市販車へ採用するケースは限定的です。
このような時代になったのは、市販車とレース車両が必要とする速度領域が大きく乖離したからです。
しかし、その速度領域を成立させるために生まれた設計思想や材料技術、評価方法は、現在でも市販車へ影響しています。
例えば、単なる装飾として見える形状でも、実際には空気の流れを考えた結果として生まれているものがあります。
空力設計では、翼の形状だけではなく、そこを流れる空気をどのように維持するか、どこで剥離させるかまで考える必要があります。
レーシングカーで使われるスワンネック式のウイング支持も、その一例です。
通常の下側から支える方式では、翼下面を流れる空気を支柱が乱してしまいます。
そこで上側から支持することで、翼下面の流れをできるだけ綺麗に保つ。
これは単なる「レーシングカーらしいデザイン」ではなく、空力性能を成立させるための機能的な形状です。
こうした考え方は、現在では市販車のデザインにも取り入れられています。
つまり、レースから市販車へ移っているものは、部品そのものだけではなく、「形状を性能として考える思想」なのではないでしょうか。
webCGでは以下に関しても語られています。
・レースと市販車の歴史
・逆パターン
確かにはるか昔、レースの技術がそのまま市販車の開発に直結していた時代はありました。しかし、それもあるレベルを超えてしまうと「レース用のマシンと市販車はまったく別」ということになり、お互いに関係のない時代が長く続きました。
引用元 : 「レースの技術」は本当に市販車に生かされているか? - webCG」
https://www.webcg.net/articles/-/49260
私は、正直なところレースそのものにはあまり詳しくありません。
ただ、ドローン関係の仕事をしていると、結果的にレースに関わっている方や、そこで培われた技術に触れる機会は多くあります。
それでも、昔から追いかけているものがあるとすれば、WRC(世界ラリー選手権)くらいです。
そして、ラリーの世界を見ると、現在でも競技車両と市販車の距離は比較的近いと感じます。
これは、サーキットを使うレースとは異なり、実際の使用環境に近い速度域で競われるからです。
もちろんラリーでも空力は重要です。
しかし、F1のように空力性能が勝敗を大きく左右する領域とは異なり、耐久性やダメージからの復旧性など、市販車開発と共通する要素が多くあります。
ここでいう共通性とは、ラリー車と市販車が同じ入力条件で使われているという意味ではありません。
数値で見れば、ラリー車が受ける荷重や衝撃は、市販車の通常使用とはまったく別物です。
むしろ、ラリーと同等の入力が市販車で発生するのは、事故などの異常状態に近いと言えます。
だからこそラリーでは、単純に壊れない強度だけではなく、大きな入力を受けた後でも走行を継続できる耐久性や、短時間で復旧できる能力が重要になります。
つまり、レースから市販車へのフィードバックが残っているかどうかは、単純に「レースかどうか」ではなく、その競技で求められる性能課題が、市販車の開発課題とどの程度重なるかが大きく関係しているのではないでしょうか。
ちなみに、量産車の技術をレースに応用するという“逆パターン”はあります。例えば、レーシングカーの耐久性を上げるためのノウハウを市販車の開発部門に求めるとか。具体的には、エンジンのシリンダー内面のコーティング技術や部品の品質管理の仕方など、さまざまです。
引用元 : 「レースの技術」は本当に市販車に生かされているか? - webCG」
https://www.webcg.net/articles/-/49260
この部分については、私の知っている範囲になりますが、少し違った方向の例もあります。
例えば、パリ・ダカールラリーのランドクルーザー300では、市販部品を積極的に活用するという考え方がありました。
確か、フロント用のブレーキ周りをリア側へ採用するなど、市販車の部品を流用する手法です。
これは、単純に性能だけを追求した結果ではありません。
レギュレーションによって改造範囲やコストが制限されているため、限られた条件の中で性能と信頼性を両立する必要があったからです。
つまり、レースでは必ずしも「専用開発した高価な部品」が正解ではありません。
量産車として大量に使われ、十分な信頼性が確認されている部品を活用すること自体が、一つの技術的判断になります。
これは、レースから市販車へのフィードバックとは逆方向ですが、レースと市販車の関係を考える上では非常に興味深い例です。
専用技術だけではなく、量産技術をどのように使いこなすかも、レースにおける重要な技術なのだと思います。
私が空力を意識するようになったのは、今から40年ほど前のことです。
10代の頃、自転車競技をしていたことで、空気抵抗が速度に対してどれほど大きな影響を持つのかを実感しました。
現在は、空力を意識しながらドローン開発を行っています。
その前段階として、空撮用の車載式バルーンを開発していた時期がありました。
当時、国産空撮用バルーンの多くは、ミサイルのような細長い形状でした。
しかし、私にはその形状が不思議に思えました。
例えば、風速8m/sは時速約29km/hです。
校庭で砂ぼこりが舞う程度の風ですが、この速度域では、細長いミサイル形状が持つ空力上のメリットはほとんど生かせません。
それならば、空力性能を追求するよりも、ヘリウムガスの搭載量を増やして浮力や運用性を高めた方が合理的だと考えました。
この経験が、現在の私の空力に対する考え方の原点の一つになっています。
本題に入ります。
私の空力設計に対する考え方には、一つ明確な特徴があります。
それは、
「想定される速度域が低い場合は、必要以上の空力性能を迷わず切り捨てる」
ということです。
何でもかんでも空力を重視すれば良いわけではありません。
空力性能には、それを成立させるための重量、構造、コストなどの制約があります。
そして、空力による効果が十分に発揮される速度域に達しないのであれば、その性能を追求する意味は薄くなります。
その場合、私は迷わず切り捨てます。
これは妥協ではありません。
想定する速度域に対して、必要な性能と不要な性能を判断するという設計思想です。
今回のテーマを見た時、私が最初に感じたのは、
「ああ、想定速度域の違いなのだな」
ということでした。
空力技術は、単純に高性能なものを採用すれば良いというものではありません。
どの速度域で使うのか。
その前提によって、必要な技術も、捨てるべき技術も変わるのです。
今回の問いである「レースの技術は本当に市販車に生かされているのか?」という答えは、何を技術と呼ぶかによって変わります。
確かに、昔のようにレースで開発された部品や機構が、そのまま市販車へ採用されるケースは少なくなっています。
しかし、レースという極限環境で磨かれたものは、部品だけではありません。
設計思想、評価方法、材料の使い方、信頼性を確保する考え方など、目に見えにくい部分にも多くの技術があります。
また、すべてのレースカテゴリーが同じではありません。
極限速度を追求するカテゴリーでは、市販車との距離が大きくなる一方で、市販車が抱える課題と重なるカテゴリーでは、現在でも技術的なフィードバックが存在します。
結局のところ、レースと市販車の関係は「技術が移るか、移らないか」という単純な話ではありません。
どのような課題を解決するための技術なのか?
その技術は、どの速度域・どの使用環境を前提としているのか?
そこを見なければ、本当の技術の価値は判断できないのだと思います。
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