「某自動車サイトのQ&Aと同じ質問にブログもどきが答えます」の第三十五弾。
開発現場はコストとの戦いだったりします。
これ、自動車業界以外も産業の全てが該当します。
Q:メーカーの自動車開発においては、コストの制約が大変厳しいと聞きます。では、そんななかで長年開発にたずさわってきた多田さんが、コスト・生産効率度外視で自由にクルマをつくっていいといわれたら、どんなクルマを世に出したいですか? 制約なきクルマの理想像、のようなものを聞かせてください。
引用元 : 「コストの制約がなかったらどんなクルマを開発したいか? - webCG」
https://www.webcg.net/articles/-/48820
回答例(webCG)
A:「そんなクルマは、つくる楽しみがない」
引用元 : 「コストの制約がなかったらどんなクルマを開発したいか? - webCG」
https://www.webcg.net/articles/-/48820
以下、私の回答。
コスト縛りが無いなら、「5年先の車」ではなくで、「20年先の一つの選択肢」を開発したいです。
webCGでは以下に関しても語られています。
・コストの制約
・すごい素材
車に限らず、全ての経済活動にコストが係わっているのとは当然のところです。
質問者は承知の上で「夢を語ってくれ・・・・」と述べています。
模範的な回答としては、現実的に実現可能だがコストの問題から形にすることが出来ない次世代の車を語った上で、「でも、コストが・・・」と述べるのが正解だと思います。
私も、開発者として同じ様な環境に身を置く人間ですので、酒の席でこの手の話は出てきます。
その参加者の傾向は以下の二つのパターンになります。
・100年先でも実現困難な「僕の夢」
・そもそも、発想が出てこない
悲しい事ですが、多くの開発者は上記の二つのどちかになります。
もしかすると発想出来ても語らないと言う可能性もあるのですが、その様な方が数年後に「あっ」と言わせることは基本的にありません。
私は第三の選択を示せる開発者なので、ここでは質問に素直に答えて活きます。
作ってみたい(基礎技術の研究含む)は・・・
「可変空力」と「可変重心」です。
2024年現在の車は、金太郎飴です。
世界中のサプライヤーから品質が整った部品が提供される。
それを組み合わせるのが自動車メーカーの仕事です。
この優秀な部品が世界中を飛び回ったことにより、金太郎飴になってしまいました。
これを打破する一つの手は、「サプライヤーが形に出来ていない何かです」
サプライヤーも専用コースを用意し、自動車メーカーと同等(場合により、それ以上)の開発環境を既に持っています。
故に、技術で戦おうとすると・・・実は詰みます。
では、自動車メーカーは何を武器にすれば良いのか?
それは、「顧客のニーズをリスクを負って掘り起こすこと」です。
ここは、サプライヤーが手を出しにくい世界です。
自動運転の普及期に入った2024年だからこそ、成立しそうなのが上記の二つでした。
そして、この重心と空力は自動車の世界では、基本的には固定とされている部分です。
まず、この二つを可変とすると、大きな問題が発生します。それは、「ドライバーが感じる違和感」です。
具体的には、高速安定性が悪いと感じる事です。
「可変空力」を掘り下げます。
燃費を下げるには空気抵抗を下げるのが効果的です。
2024年現在の市販車では、出来る範囲でココの対策は入っています。
※空力屋としては、甘いと評価します
同時に揚力を減らす方向で空力は設計されます。
※ここはガッツリと対策されてます
実は、燃費を向上させるために残っているのは、この揚力の部分なのです。
具体的には、上り坂などで揚力を発生させるという方向の空力設計を行うと・・・
擬似的に車重は軽くなり結果として燃費は向上します。
でも、この様な車は「ドライバーが感じる違和感」を生んでしまいます。
既に車は、必要に重く、タイヤのグリップも十分です。国内と限定すると路面状況も安定しています。
でも、違和感は確実に発生し、敏感なドライバーからは嫌われる特性になります。
しかし、この違和感に2024年現在では対策が可能なんです。
それが、可変空力と自動運転の組み合わせなんです。
なんてことありもせん、ハンドル支援が入っているときに可変空力で燃費モードに入れば解決です。
では、具体的にどのような方法で揚力を発生させるか?
・リアの車高を下げる
・センター(重心付近)に翼
・リアスポイラーの迎角変化
・フロントスポイラーの迎角変化
・グリルシャッターと導風の最適化
・サイドスポイラーから導風(かなり成熟しないと成立しない)
少し面白い考え方なので、迎角変化は飛行機の着陸態勢の様な形を取ることになります。(あそこまで極端で無くても数度でも効力は発生)
これにより、速度によっては車重の1/3程度なら軽量化が可能です。
なお、この機能は高速道路の長い上り坂などで用いる機能です。
下り坂では、抗力が現実的な数値に収まるなら逆の作用とします。
つまり、重くします。
なお、平地の場合は抗力が最小となるように可変します。
ただし、コレは底面が滑らかであることが条件であることから、即時の採用は困難です。
現在の技術で即時に採用可能で、明確に効果が体験出来るのが、翼の追加です。
FFミニバンなら、運転者の直上付近にアクティブな矩形翼を追加します。
なお、商売の関係からはウイングレッドも付けましょう。
これ、私も試したいところなのですが、5%程度の上り坂なら10%の燃費向上も視野に入ると思います。
でも・・・燃費のカタログスペックは上がりません。
なぜなら、燃費計測の条件に傾斜は入らないから。
カタログスペックは上がらずに実燃費があがる・・・
う~ん。これは、採用されないヤツですね。
「可変重心」は、さらに未来の乗り物感が出てきます。
こちらは、操作感の演出と安定性・制動距離に働きかけます。
ここは本業のR&Dの話になってしまうことからここから先は自粛します。
あっっっ
「可変空力」とは現実的なコストの範囲で結果が出せます。
既に車両にはデバイスが実装されていることから、ソフトのチューニングの範囲です。
例えば、「高速道路の上り坂でエアサスにより頭上げ姿勢になる」などです。
もしも、これで結果が出ないなら・・・「下り坂で頭下げ」なら確実に結果(操安と燃費)がでます。
知財も・・・恐らく、無い事でしょう。(広い権利範囲では取得出来ない)
さらに以下なども採用検討の候補に出来ます。
・自動運転レベル5時代のインフラ
・車両付近の人・動物のアクティブ監視
・4輪以外の乗用車
・空力重視ミニバン
・完全シアターレイアウトのミニバン(運転席の極端な低床化)
色々とネタはあるのですが、時間も体も一つであることから自動車を本業としていません。
今は、数年内に発表するVTOLと住宅関係のロボットの研究が仕事です。
クルマづくりといいますか、製品づくりにおいては、まずコストの制約があります。それは単に安くつくればいいということではなくて、製品に見合った価値としてお客さまにいくら払ってもらえるのかということですが、それを懸命に考え、その範囲で――もちろん企業も一定の利益を得ながら――最大限の魅力と性能を持ったモノをつくらないといけない。その全体のバランスをとるのが一番のだいご味なんです。
引用元 : 「コストの制約がなかったらどんなクルマを開発したいか? - webCG」
https://www.webcg.net/articles/-/48820
その通りだと思います。
でも・・・2024年現在の新車が「全体のバランスをとる」という観点からはおかしな事になっていると感じています。
具体的には、自動運転とインフォシステムの頑なに独自開発の方向性を取っていることを指摘します。
昨今の自動車の価格は、為替や物価上昇を踏まえても高価になっています。
その原因の大きなところが上記の二つです。
特に自動運転に関しては独自色が強すぎです。
一頃はドイツ御三家がまとまるような動きをしましたが、結局は各々という選択をしたことを知っている方もいると思います。
googleなどの新規参入も含めて覇権を狙っているという状態なのですが・・・この動きが明らかに無駄です。
確かにライバルの存在は必要です。
故に、2~3陣営で争えば良いはずなのに、事実上メーカー陣営毎に開発を進める。
酷いところでは、トヨタとスバルの二面体制。
あれ、「全方位」として褒める方がいますが個人的には違うと考えています。
技術的に正しいという選択を基本的にすべきところなのに過去の資産に投資を続ける。
「コンコルド効果」というヤツですね。
今後10~20年経過すると自動運転はいくつかの方式に集約されます。
その負け組に入ることが確定しているのに投資を継続することはコンゴルド効果になります。
外から見ているとよく見えるのですが、中に入ると・・・わかりにくい物ではあるんですけどね。
ここはやっぱり、「すごい素材を使った、ものすごいパワーのクルマをつくりたい!」なんて答えが期待されるところかもしれませんが(笑)、制約がなければそのようなものはいくらでも実現できてしまうし、それが楽しいのか? という問題があります。最高峰レースのF1だって、レギュレーションがあるから面白い。それに等しいことですね。
引用元 : 「コストの制約がなかったらどんなクルマを開発したいか? - webCG」
https://www.webcg.net/articles/-/48820
ここでは、「すごい素材」を軸に考えて見ます。
今の車は、'90年代の車と比較すると、「すごい素材」の固まりです。
鋼板から樹脂成形。ICから鋳物+掘削などと「すごい素材」のオンパレードです。
でも、自動車の「味」や「楽しみ」という点からは、素材の差ほどの違いが無いんです。
無いと言うよりも、一部では退化していると言える点まである。
なぜ、この様な事になったのか?
それが、技術者の地盤沈下にあります。
どんなに「すごい素材」があっても、それを料理する技術者の腕が明確に落ちた。
ここが最大の原因だと思います。
例えば、「CFD解析により、空力を最適化・・・」
これ、自動車の記事でもタマに見かける表現です。
これ、飛行体の専門家として言わせて貰えると「幼稚」です。
そもそもになるのですが、「解析システム」と「正しい発想」のどちらが大切か?
これは、言うまでも無く「発想」なんです。
優秀なエンジニアの「発想」があくまで大切なんです。
その結果を「解析システム」に入れるという順番なんです。
どんなに優れた「解析システム」があっても、それを扱う技術者の腕がなければ活かされません。
このページ内で、私は「可変空力」に関して述べています。
これらの多くはパッケージも含めて自動車の空力を大きく前進させようという試みのひとつ。
そして、ボルテックスジェネレーターなどの採用は小手先の空力アプローチ。
ボルテックスジェネレーターが効かないとは言いません。でも、それ以前にやるべき事が山積みでしょうという話です。
「すごい素材」にパッケージまで含めてくれるなら・・・
まだまだ、コストを上げずに実性能を向上させることは可能なんです。
どなたか、空力特化のミニバンに興味はありませんか?
◆番外編
オリンピックで“空飛ぶクルマ”が空を飛ぶ! 大阪・関西万博は大丈夫?
◆第2期
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欧州車と日本車との性能差について
スバルの水平対向エンジンの燃費性能について
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センターディスプレイは必要か?
SUVブームはなぜ起こったか?
シフトパドルは供回り式と固定式のどっちがいい?
車内のスイッチ・ボタン類が減っているのはなぜ?
クルマの専用タイヤはなぜ必要か?
車両の“マイナーチェンジ”について
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エンジン搭載車はいつ消える?
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◆第1期
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