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全高建具展示会 良い「内閣総理大臣賞」悪い「内閣総理大臣賞」

内閣総理大臣賞の中心部分

今回の内容は国内で10名程度しか理解出来ない内容になります。
多くの組子制作に携わる方にも、「何を言っているのですか?」という内容となりますが切り捨てます。

なお、今年の内閣総理大臣賞を獲得している川口さんにはブログもどきでの取り扱い許可を頂いています。
※故に手加減はしません。

お題としているのは内閣総理大臣賞。
建具業界では最大の栄誉を考えていきます。

唯一の、組子業界にマイナスのページ

ネット上の意見は自由であることが魅力です。
このページも、そんな一つとしてしまえば良いのですが・・・

他とは少し様子が異なります。
「内閣総理大臣賞を取ったこと」を売りの一つとしている多くの方々に都合の悪い事を書きます。
「素人が勝手なことを言っている」と片づけることも簡単かと思いますがこの素人(私)は少しタチが悪い。
現役を退いていると言っても、内閣総理大臣賞クラスの組子を評論出来る眼を持っている。
そして、相手が反論出来ない瑕疵を指摘することが出来る。
そして、同じ物を同等以上のクオリティで創ることが出来た。(過去形)

今でも、組子を含む建具業界を応援しています。
それではなぜ負と取れる事を書くのか?

それは、「才能とやる気のある若者に正しい道を示す為」

私自身は才能もやる気もあったと自己評価します。
しかし、商売の方向性を見誤った為に、組子職人としては数少ない作品しか残せていません。
この様な若手を増やさない為に、このページは存在します。

売り上げは・・・
技術が無い「内閣総理大臣賞受賞者」から
技術の有る「内閣総理大臣賞受賞者」と予備軍へ。

これが私の正しい組子業界の将来像です。

第45回全国建具展示会(岐阜大会) 内閣総理大臣賞

内閣総理大臣賞

初の親子二代に渡っての受賞者であることは以前のページにも記させて頂きました。

今回の主題からは、「親子二代受賞」は関係ないので評価からは除きます。

第45回全国建具展示会総評。
この作品を含め2~3点が「評価の壇上に登れるな」というレベル。
他の作品は「薪」(売り物ではない)という評価。

なお、過去20年で考えると、この作品はベスト3に入る出来と評価します。
しかしトップとは無視できない隔たりがあります。

自分の言葉には責任を取らないといけません。
以下で具体的に述べていきます。

内閣総理大臣賞

最大の減点項目から

もっとも大きな減点項目は、「精度」
私が制作していた数万円クラスの欄間の精度よりも、この作品は劣っています。
他の出品作品と比べると、「桁が違う」(もちろん、良い意味で)のですが全盛期の私には及びません。(原口工芸にも)

繰り返しますが他の職人よりはレベルが高い作品です。
しかし・・・
「まだ、精度は攻められます」

もう一息の精度向上で、制作時間のロスが1割りは確実に削減可能です。
そして、私の様な、「同等の物を製作出来る職人」からの具体的な瑕疵の指摘は無くなります。
制作時間は短縮できて、材料のロスも減る。
そして完成度が上がるのですから、精度を攻めない理由は見つかりません。

この受賞前から、川口さんとはメールでの交流がありました。
受賞後は何回かお目にかかっています。
先月には一緒に東日本大震災のボランティアにも行っています。
その被災地入りの間(延べ4日)に、組子に関するお話しがたくさん出来ました。
受賞作品を拝見した時は、「精度が低い」と感じました。
また、製作方法などをお聞きして、「攻め足りない」と感じました。

この作品が川口さんの代表作となることは間違いありません。
数百年という月日が過ぎたときにも価値が残るとも評価します。
しかし・・・
川口さんの残す作品のベスト3に入らない事も事実です。

組子細工 内閣総理大臣賞

具体的な精度不足の指摘

最初にお断りします。
私はこの作品を一定水準以上の評価をしています。
そして、まだまだ技術に伸びる余地があると感じている事から具体的な指摘を行います。

0.6mm三ツ組手地組の隙間
地組の欠損が確認出来ます。
原因は不明ですが何らかの対策が必要な隙間です。
他の場所なら、無視する事も認めますが心臓部と言えるこの場所での見落としは大きな減点材料です。

菱組の隙間
これは経験不足に起因しています。
恐らく、じっくりとつくれば問題は無かったはず。
急いでいたので、このレベルで妥協したのでしょう。
十分な経験を積んでくれば、流れるような速度で、この収まりはつくれます。(例え大工でも)
組子職人としては大工に指摘される様な瑕疵はマズイと思います。

同付の扱い
材料が問題という可能性もありますが同付鋸が切れていません。
仮にバリが出たなら、ノミでひと突きすれば良いだけ。
この一手間を惜しむことがこのクラスの作品として考えるとマイナス評価となります。
この写真から、「右利きの方が表面から切った」事が取れます。
他の部分では、「裏から切る」か「左手で切る」という選択をすべき瑕疵が確認出来ています。
その場所はこの一円玉の左側の位置。(写真では切れています)
ご本人さん、確認して見てください。

0.60mmの三ツ組手

私の過去の作例から。
組子の見付は川口さんの受賞作の心臓部分と同一の0.60mm
写真の拡大率はこちらの方が高め。
つまり、同じ大きさの隙間なら、こちらの方が目立つ事になります。
ご覧のように一切の瑕疵は見当たりません。(構図がヘタなのは触れずに・・・)

これを二十代前半でつくれた(現役引退済み)職人として、上記の評価を行っています。
私は何一つ受賞経験はありませんが今でも本物の職人であったことを誇りに思っています。

組子材による色の表現

評価が難しい項目

この作品に限りませんが材料の色の違いで何かを表現するというのは現在の組子では一般的です。
個人的にはこの方向性は好きではありません。
・経年変化により色は同じ方向に変化
・材料間の伸び縮みの差が無視できない

素人の口当たりは良くなるのです。(つまり、売りやすい)
しかし、数百年先を見越すと、複数の材料を用いるのはマイナスの方向にしか働きません。

「ただし」が付きます。
どんなに「正しい」組子でも、売れなれば生活が成り立ちません。
この観点からは材料違いは間違っているとは言い切れません。
ベストな方法は一種類の材料(且つ、同じ色目)で、陰影の表現。
ピッチと見込みを工夫すると可能になるのですが・・・
ここに気がついている職人は・・・いるのでしょうか?

一種類の材料での陰影表現は正しいのですが・・・
内閣総理大臣賞が取れない可能性が大です。(素人目には地味)
しかし・・・
数百年が経過して国宝になるのはこの方向しかないと確信しています。

組子の構図

構図に高い評価

川口博敬さんは1976年生まれ。
内閣総理大臣賞の受賞時は30代です。
若いことのメリットが構図に現れていると思います。

頭の固い方ではこの様な方向には進めないでしょう。
これからの組子職人には必須の能力と言って良いでしょう。

◆古典的な柄が本道という反論に関して
中にはこの様な、「新しい」構図に反対する方もいると思います。
「組子は伝統工芸であるべき。デザインに走る組子は良くない」と思う方も・・・
個人的にはこの様な観点には反対します。
全面的にデザイン主体の組子を支持するわけではありません。
あくまで、基本技術がしっかりと構築されているという条件で構図の工夫です。
デザインのみで、基本技術を蔑ろにする、多くの内閣総理大臣賞受賞者を私は好みません。

・つくれた上で古典的な構図を選ぶ
・古典的な柄しか作れない

両者には大きな溝が隔たっています。

◆パソコンは21世紀の組子職人のツール
組子のデザインの検討にCADを用いてる職人も増えたかと思います。
このCADをもう一歩進めて・・・3DCGを採用するというのがこの先を考えた組子職人。
具体的な用途は・・・
・柄の違いによる背景の光の透過シュミレート
・経年変化を考慮した構図の検討

なお、'93年当時の私はCADを既に採用しています。
まだ、MS-DOSという時代ですので、本当に簡単な事しか出来ない時代ですが構図のバランス確認は十分出来ました。
なお、同時代の原口工芸にもパソコンは存在していました。
その当時ですので、一式で100万円などと言う時代。
組子職人は時代の最先端を行く。
私はそんな思いで仕事に取り組んでいました。
現在でも、木工細工の最先端が組子細工という考えは変わりません。

悪い「内閣総理大臣賞」

結論から入ります。

過去の内閣総理大臣賞の、ほとんどは評価に値しない。

具体的に評論外の根拠を示します。
・NCを用いているのに通りが悪い
・噛んでいる
・隙間がある
・政治的な目線で選ばれている

上記の悪い例が一例も引っかからないのが第39回全国建具展示会 内閣総理大臣賞受賞組子 原口工芸・原口竹春作です。
第45回の川口さんの受賞作は、「隙間がある」で減点をします。
人の眼で確認が出来るレベルの隙は全て減点材料です。

減点をしますが他の回の受賞作品と比較するとクラスが一つ上であることも事実です。
よって、第45回の受賞作は、「良い」の棚に置きます。
比率としては全国建具展示会に出展されてる100作品の中で一つくらいの比率だと思います。

現在の組子職人はNCラジアルソーという武器があります。
これを用いて、隙間を出す様な方は内閣総理大臣賞の受賞資格は無いと個人的には考えています。
ちなみに、内閣総理大臣賞の受賞を掲げて腕の無い職人は当然ですが大嫌いです。
組子の需要は今後も大きな物は見込めません。
この貴重な需要は本物の腕を持っている正しい職人に配分されるべきです。
その観点からは今回の川口さんは十分な資格があると思います。

素人にもわかる「政治目線」
それは開催県の職人が開催県での内閣総理大臣賞受賞。
これは極めてわかりやすい。
私が該当する職人なら・・・
何が何でも地元では受賞しません。
折角の地元開催ですから、全力で臨みますが受賞は辞退します。
これはまじめに技術を磨いている職人に対する冒涜以外の何者でもありません。
職人を辞めて久しいですが誇りは捨ててないつもりです。

内閣総理大臣賞は価値が無い

結局のところは45人(重複も有り)も内閣総理大臣賞の受賞者がいることが問題です。
本当の一番を決めたいのなら・・・
10年に1回の開催くらいが丁度良いのでは無いでしょうか?
組子職人の、「ピーク」は特定の年齢に無い事を、既に証明されています。
本物の職人が本気で取り組めば、10年に一度の開催でも複数回の連覇が可能です。
大作は物理的な時間と同様に命のロウソクを削るような集中力を必要とします。
明らかに1年スパンでは短すぎます。
開催スパンが短すぎるから、評価に値しない内閣総理大臣賞受賞者を量産する・・・
これでは本物まで価値が落ちてしまいます。

なお、10年に一度の大会なら・・・
5位でも大変な名誉。
本物の職人が本気で取り組んだ結果。
ここで政治色で選ばれたなら、死人が出る程の問題となります。
※私なら、それほどの覚悟で臨みます。

この10年に一度の、「本気」の戦いは大きな問題があります。
選者が居ない・・・
組子の世界には引退がありません。
体力よりも集中力を必要とする仕事ですので、死の床ですら仕事が出来ます。(私の父の例)
年齢よりも、職人としての地の力が形になります。(原口竹春さんの例)
このクラスの職人が登場する大会の審査にはそれを作れるクラスの選者が必要です。
選者と出展者はまともに被るので選者が居ない。
レベルの低い選者は作者が込めた技術的な仕掛けを永遠に理解出来ない。

結局は本物を選べるのは本物をつくれる者のみ。
ちなみに、内閣総理大臣賞の選者の多くは今年の川口さんの作品の全てを作る事は出来ません。
コストも納期も無視という条件を付けても、第45回の受賞作と同等以上の作品をつくれる職人は10人以下。
それほどの価値が川口さんの作品にはあります。

まとめます。
全国建具展示会で内閣総理大臣賞を受賞している作品の多くは薪レベル。(私の基準からは売り物ではない)
今回の作品は高い点を付けれませんが売り物と呼んでいいレベル(褒めています)

今後に大きな期待を持てる人物であることは間違いありません。

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